冷静で中立的な報道こそがネット世論の過激化を止める

2019年10月20日 06:00

台風19号の水害に関するメディアの報道は昔に比べてかなり進化していると感じる

水害などの災害があった時には、「冷静で科学的な原因分析と対処」と「人びとの魔女狩り欲求的な犯人探しのエネルギー」との間の折り合いをどうつけるか…というのは古今東西難しい問題です。

陸上自衛隊HPより:編集部

しかし、今回の台風19号に関する主流メディアの報道は、かなり「あるべき報道」をしつつあるように感じています。「冷静で中立で総体的な報道」をすることが、インターネット上の無駄な罵り合いを抑止していくためにいかに重要か…という良い例だと思うので、この例を台風報道だけでなくあらゆる分野でもスタンダードにしていければいいと思えるほどです。

例えば先日の台風19号が関東地方を直撃していた時、神奈川県の城山ダムの緊急放水が問題になっていました。

緊急放水のタイミングをあちこちを睨みながらギリギリまで判断し、水門のほんの少しの上げ下げも冷静に考えながら対処することで、結果的に下流域の水害発生を抑えることができたそうで、それを実現した関係者の細心の注意を払った働きには敬意を表したいと思っています。

城山ダム(Wikipedia:編集部)

一方で当時からインターネット上では、

緊急放水しないで良くなるように、水害前にダムの水位を下げておくべきだったのにできていないのは怠慢だ!

という反発と、

お前緊急放水の仕組みわかってねーのかよ!ダムが決壊しないように必死の努力をした結果が緊急放水なんだよ!

という交わらない罵り合いが加熱しており、実際のところはどうなんだろうか??水害を見越してもっと水位を下げておける余地があったのかなかったのか?はリアルタイムには結局わからないままでした。

台風が去ってからの報道で理解したところでは。

・農業用水や工業用水の利用に不都合がでない範囲までの、洪水対策用の事前放水はしていた
・利水用の分まで踏み込んだ事前放水は行われておらず、今後巨大な台風が来る予報が確実な時には、そこまで踏み込んだ事前放水をやる対策が重要になるのでは

…ということだったことがわかりました。

今回の台風関係の報道は、全国の河川の支流まで含めた全体像と、それらの水位が降水量に対してどう変化したのか…という総体的なデータが可視化され、そのわかりやすいグラフィックを元に議論する形が、地上波テレビなどの特集番組で数多く見られており、結果としてどういう対策が有効だったのか、どういう対策が足りていなかったのか・・・について冷静な議論ができるようになりつつあるのは、とても大きな進歩だと思います。メディア関係者の方はぜひその路線をどんどんあらゆるテーマでも追求していただきたい。

そうやって「冷静で中立的で総体的な」報道を、主流メディアはちゃんとやることが、”魔女狩りの熱情”から社会を守る重要な免疫システムになるからです。

魔女狩りの熱情を、いかに克服するかが現代におけるメディアの最大の使命

20世紀後半から伝統だったメディア報道の最大の問題は、この「魔女狩りの熱情」に「主流メディア」が一緒になって乗っかって騒いでしまうことでした。

そういうふうに焚きつけると、そもそも治水対策に有効なのはダムなのか既存河川の底をこまめに浚渫することなのか堤防なのか調整池なのか問題地区の底上げなのか…が全然わからないまま(しかもこの答えは全国ひとつひとつの川の地形や流域住民の状況から見て毎回すべて違ってもおかしくない)、とにかく「わかりやすい敵」を叩く熱情だけが暴走し、冷静な治水行政が崩壊してしまうことになります。

現状の治水システムにも良いところもあれば悪いところもあり、温暖化が進む時代の変化とともにアップデートしていかなくてはいけないこともたくさんある。

問題は、「今の治水システムのここが問題だという冷静な議論」と、「今の政治に対する漠然とした不満」が魔合体してしまって、「どこが良くてどこがダメなのか」という冷静な議論がどこかに吹き飛んでしまうことです。

そういう警戒心があるから、強い言葉で「ダムは事前放流しておくべきだったのに!」と非難する人に対して、SNS上であまり噛み合ってない個人攻撃が溢れかえり、結局「事前放流をもっと利水部分までやる余地はなかったのか」についての冷静な議論がどこかに飛んでしまうことになる。

NHKニュースより:編集部

今回の19号に関するメディアの報道は、支流まで含めた河川全体の水位量の経時変化をグラフィックで見せるなどの技術変化の恩恵もあって、「反権力派の魔女狩りに一緒になって参加する」のではなくて、「治水行政がどうあるべきだったのか」についての「冷静で中立的で総体的な議論」ができていることは、非常に良いことだと私は思っています。

その「態度」を主流メディアが続け、「反権力でありさえすればなんでもいい」的なモメンタムに対してちゃんと自浄作用を発揮していくことは、その逆側で過激な「右傾化」をしがちなネット世論の沈静化に対しても「唯一の解決策」といえるほどだと私は思っています。

また、さらに踏み込んだことを言うと、例えば台風19号の水害に対する対策費を政府が7.1億円予備費から支出するというニュースに対して(もちろんこれは当座すぐに必要となる経費の手当であって、いずれ本格的な対策費用は別に予算が組まれます)、たったそれだけか!やはりアベを倒さなくては日本に未来はない!…みたいなことを言う反権力ツイッター芸人さんたちのツイートが万単位でリツイートされたりするこの時代には、むしろさらに踏み込んで「誤解の芽を摘んでおくフェアさ」もメディアには求められているかもしれません。

こういう「毎回起きるデマの盛り上がり」に対しては、主要メディアがむしろ事前に、「これはとりあえずの対策費であり…」といった但し書きを毎回つけるぐらいの配慮が、このSNS暴発時代には必要ではないでしょうか。

この「アベを叩けさえすればなんでもいい」的なツイッター芸人さんたちの盛り上がりが強すぎることで、「あいつらと一緒にされたくない」的に消極的アベ支持になってしまった…というリベラルな友人が私にはたくさんいます。そういう「罪」を侵させない配慮をするぐらいのことがこのインターネット時代には主要メディアには求められていると私は考えています。

党派的な罵り合いを超える視点を提供することができるか?が問われている

以下は私の5年ぶり新刊「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」に使った図ですが…

大阪にいる時には、「とにかく東に進めれば進めるほどいいぞ!」みたいな上記の「新幹線言論」が必要な時期もありますが、複雑な現代社会をちゃんと改善するには、「もう品川についちゃってるから、新宿に行くには山手線で8番目だよ、7番目でも9番目でも凄い歩くから大変だよ」という「山手線言論」をしっかり社会で共有していくことが必要です。

何度か個人ブログに書きましたが、私は経営コンサルティングのかたわら、「文通を通じて個人の人生の戦略を考える」みたいな仕事もしてるんですが、こないだまで、某巨大野党の国会議員さんがクライアントだったことがあるんですよね。

脱原発について彼が党でまとめたペーパーは、単に「脱原発できていないのは電力業界とアベ政権の陰謀だ!」的に騒ぐだけに終わらず、実行段階における色んな懸念点や問題点について微に入り細に入り検討されていて、「こういうのちゃんとあるんじゃん!そうそう、こういう話を進めていかなくちゃ脱原発なんてできないよ!」と思ったんですが、そういうのは「妥協だ!」とか言って党の中で潰され、マスコミでも扱われず…結局その党は解体されて延々と1割ぐらいの支持率を複数政党で争い続けているのは皆さんの知るところです。

社会全体のエネルギー政策とか、治水対策とった社会の切実な問題に対して適切な対策を打っていく「社会に対するほんとうの責任」を考えると、「なんでも政局化する」のではない野党側の責任というものがあるはずなんですが、メディアの取り上げ方の時点で「魔女狩りの後押し」しかしていなければ、野党議員は「魔女狩りに参加」して騒がざるを得なくなってしまいます。

写真AC(編集部)

逆に、主流メディアがちゃんと「社会に対するほんとうの責任」を自覚し、極右に批判されるのと同じぐらい極左にも嫌われるぐらいになってこそ、野党議員はちゃんと「ほんらいやるべきこと」ができるようになるはずです。

最近、NHKやテレビ朝日などのニュース番組が、極右の人からは「反日だ!ぶっ壊せ!」と言われ、逆に極左の人からも「アベへの忖度メディアに堕してしまった!」と言われているのを見ますが、それは実は「そういう反応になっていることが実は正しい道を歩んでいる証拠」なのだと私は考えています。

台風19号関連の報道は、その点で「あたらしい希望」を感じさせるものでした。

まだヨチヨチ歩きにコワゴワ進んでいるような感じですが、最近の日本のメディアに目覚めつつあるこの「あたらしい論調」には非常に希望を感じています。

結局誰も幸せにしていない「ゼロ対100に他人を糾弾し続ける20世紀人類の病」を克服し、アジアの時代ならではのソリューションを提案していく最先端の役割が、今日本人がそれぞれの立場から必死に声を上げつつ進んでいく道の先には見えています。

幸薄い党派的罵り合いの自己満足が空中分解し、一歩ずつ「意味のある実効性」に向かって人々の注意を引きつけていける状況になっていくように、一緒に頑張っていきましょう。

民主主義を諦めない、ために。

そういう観点から、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」という直球なタイトルで、私の5年ぶりの新刊が今度でます。

以下のリンク先↓の無料部分で詳しく内容の紹介をしていますので、このブログに共感いただいた方はぜひお読みください。

みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?

また、同じ「メタ正義」的な視点から、紛糾続ける日韓関係や香港問題などの「東アジア」の平和について全く新しい解決策を見出す記事については、以下のリンク↓からどうぞ。(これも非常に好評です。日本語できる韓国人や中国人へのメッセージもあります)

この視点にみんなが立つまでは決して解決しないで紛糾し続ける・・・東アジア問題に関する「メタ正義」的解決について

倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
公式ウェブサイト
ツイッター

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倉本 圭造
経済思想家、経営コンサルタント

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