河川の下流域を守るのは堤防強化:なぜスーパー堤防が必要か?

川松 真一朗

東京都議会議員の川松真一朗(墨田区選出・都議会自民党最年少)です。

さて、台風19号の爪痕として依然として河川氾濫が起こってしまった地域における救助活動、復旧活動が進んでいます。想定外大雨もあり各地区で時間がかかりそうな様子です。東京都では多摩地区で4か所、区部で1か所という報告があります。

さて、これまで私はダムの話、調節池の話をご紹介してきました。

ダムで行われた緊急放流の役目とは
台風19号上陸も、東京0メートル地帯はこうして守られた。

河川下流域での対策は?

言い換えれば、治水事業としておおまかに上流部はダム、中流部は調節池となります。では、下流域はどうなるのかということについて言及していきたいと考えたところでした。多摩川の事例を見るまでもなく堤防機能が必須なのは言うまでもありません。堤防機能の無い約540mが正に運命の別れ目でした。

一方で、今回、早いタイミングで避難勧告の出た江戸川区は荒川と江戸川という大きな河川に挟まれている区であり、治水事業は住民生活を守るためには必要で、現場のソフト面対策も日頃から練られていました。ただ、避難は「避難所に行く」だけではなく、垂直避難という高いところで身の安全を図ってくださいという意味合いが含まれているのが知られていませんでした。

事業仕分け当時のNNNニュースより:編集部

今回の事例でネット上を眺めていると、民主党政権時代の事業仕分けが活発に議論されています。「スーパー堤防」事業の是非についてです。仕分け人だった緒方林太郎元議員(民主党)による「スーパー堤防はスーパー無駄遣い」というセンセーショナルな発言にマスコミや世論が飛びついたのは記憶に新しいところです。

蓮舫氏は整備済みのものを更にスーパーにする事業の即効性に対しての費用効果を求めていたのですが、当時の蓮舫氏はカッコよく見えて「スーパー堤防=悪」という見方が広がったものでした。

スーパー堤防の効果

スーパー堤防とは、国では高規格堤防と呼ばれるもので、土で造られた、ゆるやかな勾配を持つ幅の広い堤防です。広くなった堤防の上は、通常の土地利用が可能で、新たなまちづくりを行うことができるのも魅力です。

堤防の幅を非常に広くして破堤を防ぐので、地震にも強く、万が一計画を超えるような大洪水が起きた場合でも、水が溢れることはあっても壊滅的な被害は避けることができるという論に基づきます。

まとめますと、

  1. 越水しても壊れない
  2. 浸透しても壊れない堤防
  3. 地震に強い防災

という特徴があると言えます。例えば、川の堤防をかさ上げして強化していこうというものです。元々堤防が整備されている部分もありますが「不安残るところだよね。」というところをお金をかけて整備すると思えば分かりやすいかもしれません。

この事業は国の事業と東京都の事業に分かれていまして国の事業ですと、江戸川、荒川、多摩川、利根川などがあります。都の事業ですと隅田川、中川などです。

実は都の事業は国が始めるよりも先にスタートしていて東部低地帯への危機意識がうかがえます。国事業のスーパー堤防の方が規模感は大きくなるので、早いからいい悪いの話ではないことも付け加えておきます。

荒川区内の隅田川テラス(Wikipedia:編集部)

私の地元を流れる隅田川はおかげさまでテラス整備も進み、10月12日の満潮時にテラスは水が入ってきましたが、堤防決壊のような心配はありませんでした。両国にはこの事業でリバーセンター開業に向けて準備中です。

今回の台風19号や西日本豪雨の際に必ず蓮舫氏の批判が拡散されますが、民主党政権があそこでスーパー堤防を廃止しなければ被害を防げただろうという意見に対して、私は賛同できない部分もあります。それは大掛かりで息の長い事業なだけに、今回に間に合ったかどうかとなるのです。但し、大切なことは一般的に少しでも堤防決壊のリスクがあるならば、それに対しての処置はしたのか、できたのかということを考えるべきです。

高潮浸水想定区域図にビビッていた

東京の話になりますが、東京都は高潮浸水想定区域図を発表しました。東京が広範囲に危険だと指摘するものです。

ポイントは

  • 我が国既往最大規模の台風(室戸台風級:910hPa)を想定
  • 東京港に最大の高潮を発生させるような台風の経路を設定
  • 高潮と同時に河川での洪水を考慮
  • 最悪の事態を想定し、堤防等の決壊を見込む

私は12日の上陸の際、この高潮浸水想定区域図が頭によぎったのです。というのは静岡県に上陸した際の中心気圧は950hPaと報道されました。中心気圧が低いほど威力があるのが台風です。中心気圧が低いと水面を吸い上げる力を持っているので、威力があると河川の水位も上がっていく事になります。40hPaの余裕が数値上はあるとしても、万が一に高潮浸水想定区域図のようになれば東京は大変な事になるという焦りがあったのです。

とは言え、先に紹介したような上流部、中流部のオペレーションは現場職員が嵐の中で命がけの判断をしている中で、私に出来ることはひたすら情報収集、情報発信、関係各所との連携しかなかったのです。それでも、不安解消の為にメッセージを届けられなった皆さんには申し訳なく思っています。ご承知の通り、想定された最悪の事態は免れたものの被害が出てしまったことは間違いありません。

私は昨年6月の議会で都議会自民党を代表して本会議場で登壇し、以下の発言をしています。(少々長いですがお付き合い下さい。)

都が本年3月に公表した高潮浸水想定区域図によると、ひとたび過去最大級のスーパー台風が襲来し、堤防が決壊したとなれば、最悪の場合、23区の3分の1が浸水するという実に衝撃的な内容であります。

こうした大規模水害に備えるために、水害対策の根幹となる堤防そのものの耐震化や、避難所ともなり得るスーパー堤防などの整備だけでなく、行政区域を越えた避難場所や避難手段の確保など、区市町村や関係機関と連携しながら、都として広域避難の取り組みを進めることが重要であります。

都民の生命と財産を守ることは、行政の最大の責務であります。ソフト、ハード両面から首都東京の安全性を高めるため、万全の対策を講じていくことを求めます。

つまり息の長いスーパー堤防だけでなくやれる対策を十分にやっていく必要があると常日頃から思っているのです。都議会過去の議事録を見てみると、都議会に初当選して直ぐの2013年12月本会議、2016年3月の予算委員会で堤防や水門の整備について、耐震対策や維持管理も含めて私自身が言及していました。

いずれも、自分達が幼い頃から「海抜0メートル地帯」で生活していると教育されてきたからであり、おじいちゃん、おばあちゃんからは台風で畳がプカプカ浮いていたという昔の話を聞いて育っていたからです。

ですので、治水には人一倍関心をもって取り組んできたのですが、まだまだ手の届かない場面も多くあります。今回、多摩川でも堤防決壊もありましたが、住民の理解が得られず整備されていない部分がやっぱり弱点だったということです。

何十年に一度よ災害対策の公共事業は往々にして同様のことがあります。浸水対策ではありませんが、東京の下町では木造家屋がぎっしり並んで、消防車両が入っていけないような「木造密集地域」が各所にあります。この事業も、住民の皆様のご理解を頂きながら道路を整備したりする新たな街づくりが必要で、お引越しをお願いせざるを得ない場面もあります。

本当に心苦しいのですが行政マンはそこに対して、真摯に事業を説明し、お一人お一人のご協力が多くの人命を救い、街を救うということを日夜ご説明して回っているのです。今回のように、その事業がいつ効果を発揮するか分かりませんが防災インフラに関わる行政マンの気概がそこにあります。

「No 偏向報道」が日本を救う

2011年3月11日の東日本大震災の際は「想定外の想定」という言葉が出てきましたが、地球環境の変化により浸水対策はかなりハイレベルに科学を駆使して準備できるようになってきています。各町を浸水から守るという意味では、今一度、下流域の堤防や水門機能を多くの方に知って頂く必要があり、今こそが絶好の機会だと考えています。

その上で、無駄なものは無駄、必要なものは必要と胸を張って議論できる環境。どちらか一方に肩入れしないメディアが今の日本には必要です。私の発信もまだまだ微弱ではありますが、いつか多くの方のために役に立てる日が来ると信じて書いていきます。正に「息の長い事業」です。

川松 真一朗  東京都議会議員(墨田区選出、自由民主党)
1980年生まれ。墨田区立両国小中、都立両国高、日本大学を経てテレビ朝日にアナウンサーとして入社。スポーツ番組等を担当。2011年、テレビ朝日を退社し、2013年都議選で初当選(現在2期目)。オフィシャルサイトTwitter「@kawamatsushin16」