「避難所はホームレスが行く場所」という目標を掲げよ

2019年10月24日 06:01

行政活動は詳細な事前情報が大前提

東京・台東区が台風19号に備えて開設していた避難所でホームレスの利用を拒否したことが物議を醸している。ネット上では台東区への強い批判はもちろんだが「利用拒否」の判断に同情する声も少なくない。

行政の役割を考えれば台東区の判断への批判は当然だが一部に散見する「日本人は冷酷だ」とか「日本社会の分断は進んでいる」といった「主語が大きい」批判が建設的な議論に繋がるとは思えない。

台東区役所(Wikipedia)

この問題でまず確認しなければならないのが行政はどのような原理で動くかということである。

今回の騒動では台東区の防災計画が台東区民を前提としていることに対して「非現実性」「柔軟性の欠如」といった批判があった。しかしおよそ「計画」とは事前に補足している情報を基礎に策定されるものである。だから台東区が台東区民を前提に防災計画を策定することは誤りではない。

計画策定段階で今回のホームレスのように例外的な状況への対応を規定してはならないということはないがやはり策定の基礎となるのは事前に補足している情報である。

例えば沖縄県の市町村に「札幌市民を考慮した防災計画を策定すべきである」と求めても沖縄県の市町村は札幌市民の情報を補足していないから策定しようがない。

事前情報あっての「計画」であり「避難所」もその枠内にある。「避難所」は学校の体育館、公民館などの公共施設に設置されるが、これら公共施設は定住住民の人口を基礎に建設されるものである。だから「避難所」の空間も実は「住民」に該当しない人間は積極的に考慮されていない。計画策定に限らずおよそ行政活動とは詳細な事前情報が大前提である。

誰でもなんらかの行政サービスを利用した経験があると思われるが、利用者は皆同じサービスを受けているわけではない。介護サービスの利用料への補助などは所得を根拠に「差」をつけたりしている。そしてこうした「差」は行政が住民の個人情報を事前に補足しているからこそ出来るのである。

こうした行政の原理を踏まえたうえで今回の騒動を検証すればやはり行政が補足する事前情報の中で「ホームレス」の情報が曖昧になっていたのではないか。

だからまず必要なのはホームレスの情報を明確化することである。

waoaw/イラストAC

「ホームレス」と「衛生」 

今回の騒動では「ホームレス」という言葉が話題になっているが、一部報道では「路上生活者」という言葉が使用されている。

「命や人権を守るという意識が欠如」路上生活者の支援団体が台東区役所に要望書(バズフィードジャパン)

ここは「議論の活発化」のためにも用語は統一すべきだろう。

既に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が制定されており「ホームレス」という言葉は法律用語である。

だから「路上生活者」ではなく「ホームレス」という言葉を用いて議論すべきである。

そしてこの特別措置法に基づき国の「ホームレスの自立支援等に関する基本方針」も策定されている。

基本方針ではホームレス対策として「ホームレスの衛生状況を改善していく必要がある」とか「清潔な衛生状態の保持に努める」といった表現が用いられている。管見の限りネット上でホームレスの避難所利用を懸念する声のほとんど全部がホームレスの方々の衛生状態、特に「臭い」「汚れ」への懸念である。

法律用語として「ホームレス」があり、しかも国が策定する基本方針でホームレスの方々の衛生状態の指摘、しかも「清潔」という言葉を用いて指摘されている事実は重要である。

国の基本方針を参考にすればホームレスの方々を「衛生状態に課題を抱えている」とか「衛生状態が周囲と著しいギャップがある」と評価しても問題はないと思われる。

そして行政の視点からすれば事前情報の段階「ホームレス特有の課題」が明確化されることが非常に重要なのである。行政は事前情報が明確化されることで適切な対応が出来るのである。

今回の騒動で言えば衛生状態が周囲と著しくギャップがある方が避難所に来た場合「個別対応」もやむを得ない。「個別対応」は決して「差別」ではない。

現場の公務員が「個別対応」を意識することで相手を尊重し理解と協力を得ることが出来る。今回のようにデリケートな問題ならば事前訓練すれば良い。

行政に柔軟性を持たせるためには詳細な情報を行政に注入することが必要であり、そのためにも建設的な議論が望まれる。

「避難所はホームレスが行く場所」という目標を掲げよ

今回の騒動で「避難所」が注目されたが、その収容力には限界がある。「避難所」を基礎に防災を考えることは現実的ではない。「公助」だけではなく「自助」についてもスローガンではなく本格的な議論を行う必要がある。

今回の台風被害として戸建て住宅の屋根・壁の破損が多数挙げられたが、それは日本の住宅の防災力(耐久力)の低さ、そしてなによりも日本の住宅政策の貧弱さの現れである。

日本では戸建て住宅は完成した瞬間から資産価値が下がる。欧米のように何世代も利用とする発想がないからリフォームのインセンティブが実に弱い。

もちろん人口減少・格差社会の現在、戸建て住宅の需要は大きく変化しているが、だからといって防災力(耐久力)の低い住宅を容認する住宅政策が良いはずがない。日本の住宅政策を再検討することが求められる。

そしてなによりも都市部のインフラ整備が必要であり、東日本大震災から「帰宅困難者」が注目されているが、この背景には「痛勤地獄」と形容される非人道的な電車利用が常態化している現実がある。悪質な通勤環境の影響は通勤経路に限られない。

また、過去の民主党政権への批判の意味も込めてスーパー堤防が注目されているが「注目」で終わらせるのではなく「整備」に向けて議論を進めるべきである。

都市部のインフラ整備の課題は世論の支持であり、なぜならば「私権調整」が伴うからである。だから世論の注目を集めているときが重要なのである。

「私権調整」は膨大な労力であり地方自治体への負担も著しい。そしてこの「私権調整」を効率化する(手続きの簡素化)ことが出来るのは政治家である。「国民の権利」の制約を正当化出来るのは「国民の代表者」しかいない。公務員には出来ない。

今回の騒動で政治家に求められることは「ホームレスにも避難所を開放すべきだ」に留まらず「避難所とはホームレスが行く場所」という目標を掲げ総合的な防災対策を推進することである。

現在、一部野党議員の振る舞いが問題になっているが、彼(女)らが総合的な防災対策の議論が出来るとはとても思えない。

そろそろ限度を超えた振る舞いに対しては「職務放棄」「議事妨害」と判断し相手にせず「その他」扱いとし「対案」を示し建設的な議論が出来る政治家・政党を「野党」と呼ぶべきだろう。

高山 貴男(たかやま たかお)地方公務員

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