イスラムのテロは終結するのか?

ISの指導者、アブバカル・バグダディ容疑者が死亡しました。アメリカの特殊部隊が突入して追い詰めたものです。その作戦にはロシアもトルコも支援したということですから、いがみ合っている同士でも案外、協力体制はあるものだということも見せつけました。

(写真ACから:編集部)

(写真ACから:編集部)

トランプ大統領は10月7日にシリア北部からの撤退を主張し、アメリカの一部の議員からは強力な反対意見が出ていました。想像ですが、トランプ大統領はこの時点でバグダディ容疑者の隠れ家を見つけたこと、そして掃討作戦が近々行われることを知っていた上で北部撤退を指示、一部の反対層の声を想定した上で作戦の成功がそれ以上の政治的効果があることを計算していたとみています。

言い換えれば来年に選挙を控えるこの時期に「外交的勝利」を見せつけることはトランプ大統領が圧倒的有利な立場になるとも言えます。トランプ大統領が上手だと思うのは基本的に駐留軍は金の無駄で安全保障も確保できないという選挙民の同意を得やすい考えを持っており、アメリカがそこにいる必然性はないという基本方針が明白に貫かれている点でしょうか?

今回の作戦成功を受けてシリアについては監視体制こそ引き続き維持するもののロシア、トルコとの協調関係を持ちながらアメリカ軍の関与を薄めていくのではないかとみています。もちろん、イスラムのテロがこれで終わるとはほとんどの専門家は考えておらず、何らかの新たなる芽はどこかから生まれてくることでしょう。しかし、過激派が支配することがいかに難しいかということをはっきり見せつけ、わざわざ「犬のようにおびえて」という表現を使うことでどれだけみすぼらしいものかを強調し過激派の戦意を喪失させるつもりだったとも言えます。(それが効果的かという反論の声があるとは思いますが、正攻法ではあります。)

さて、興味深いのはシリア北部の次の動きであります。「国家を持ったことがない3000万人もいる世界最大の民族」クルド人がどう出てくるか、であります。米軍はIS掃討作戦でクルド人と協力体制を敷いていました。

一方、隣国のトルコはクルド人勢力の膨張に対しては歴史的嫌悪感を持っています。もともとはトルコがオスマン帝国から現在の形になってから以降、いわゆる民族闘争としてクルド人と延々とぶつかり続けているため、犬猿の仲であり、一定の和平関係を設立しないとこの戦いは終わることがないと考えられています。

ならばシリア北部のクルド人自治区を再度確保し、その地からでる石油資源でクルド人をより自立させ(願わくば独立国)、トルコとの歴史的闘争に一定の敷居を作るという発想は誰も言いませんが、狙いとしてはあり得るのではないでしょうか?もちろん、ロシアもトルコもイランもイラクも反対するでしょうが一定の抑止力は必要だと感じます。併せてシリアににらみを利かせることも可能で、アメリカにとっては都合がよい流れです。(クルド人がなぜここまで嫌われるのかは別途考察する必要がありそうです。)

イスラムのテロの根源には一つにイスラムの貧しい国や人々と貧富の差が根底にあると考えられます。また、宗教的問題というより主義主張と民族的問題、更に石油の利権などが絡んだ複雑怪奇な世界を作り上げています。とすれば中東が石油依存体制にあったことが過ちの背景とも言えます。今後、脱化石エネルギーが進む中で中東がどのように工業化を進め、国家計画上、長期的に発展しうる道を見出すのか、そして欧米諸国がそれをどうアシストできるかが中東安定とテロの撲滅への一歩なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年10月30日の記事より転載させていただきました。