ウィーン市7区にあるミュージアム・クオーター(MQ)で9月26日から「オーストリア・日本国交樹立150周年」を記念したイベントの一環として、日本の現代芸術展「Japan Unlimited」(ジャパン・アンリミテッド)が開催中だが、19人の芸術家(日本、イタリア、オーストリアの芸術家)が展示した作品が日本を明らかに中傷、誹謗する内容だということで、同記念イベントを支援してきた在オーストリアの日本大使館はこのほど支援を中止する旨を通達したことが明らかになった。
同記念イベント開催は日本大使館からのメールで知っていた。“現代芸術展”というので、あまり行く気がしなかったが、オーストリア国営放送や日刊紙が紹介し、展示会で日本への批判が強い作品が多く展示されていると聞いたので、MQに行ってみることにした(同展示会は入場無料)。
展示会に足を一歩踏み入れると、入口に最も近い場所に2人の日本人男性の全裸写真が掲載されている。展示会場はうす暗い。「これが現代の日本芸術展か」という深い失望と、「なぜこのような芸術展がオーストリア・日本外交150周年の記念イベントとして開催されているのか」といった思いが湧いてきた。
芸術展の紹介には「日本社会には本音と建前がある。この展示会では日本社会の本音を紹介する」と記述されていたが、会場に展示された作品は偏見なく言えば、芸術品ではなく、製作者の個人的な左翼イデオロギーを表現したもの、といった印象を受けた。安倍晋三首相に似せた人物がインターナショナル・アセンブリーで演説するところを可笑しく描いた動画、北海道共産党支部を訪問した作者がそこで共産党員と共産主義の未来、マルクスについてなどインタビューしている動画、東京電力会社の幹部が謝罪表明している動画など、これは明らかに安倍政権を批判し、反原発、反日といった典型的な左派イデオロギーに基づいた展示品だ。「Hirohito,s New Clothes」というタイトルの作品では昭和天皇らしき人物が軍艦の前で軍人と並んでいる写真が映っている、といった具合だ。
これ以上、書かないが、少女像を展示して物議を呼び、開催が中止された愛知トリエンナーレの一部展示会『表現の不自由展・その後』を想起させる反日オンパレードの作品だ。実際、2、3人の芸術家は「表現の不自由展」に出品した作者たちだ。彼らは表現の自由を求めて?、「日本、無制限」な展示会のウィーンに出品した、というのだろうか。
問題は別のところにある。ウィーンに出品した日本の芸術家は自身の作品を展示しただけだが、なぜ彼らを選択したのか。「オーストリア・日本外交150周年」の記念行事として日本大使館はなぜこの展示会を支援したのかだ。
そこで同展示会の総責任者、イタリア人のマルセロ・ファラべゴリ氏(Marcello Farabegoli)に6日、インタビューして聞いてみた。
――日本大使館から展示会の支援を切るという連絡があったが、その通達はいつあったのか。
「先月末だ。9月の開幕式には大使館から公使、文化担当外交官らが参加した。彼らは喜んでいた。それが10月中旬、正確には愛知トリエンナーレが終了した直後、大使館はウィーンの展示会に批判的になった。そして先月28日頃、公使から支援打ち切りの連絡を受けた」
――愛知トリエンナーレの影響があったというわけか。
「それしか考えられない。日本大使館関係者はどのような作品が芸術展に展示されているか知っていたが、開催当初は歓迎していた。それが開催1カ月後、批判的になり、そして支援中止となったわけだ。われわれは芸術の自由を重視する。今回の日本大使館の決定は残念だ」
――MQから報道向けのステートメントが出ている。そこでは芸術の自由尊重という立場から、今回の展示会の開催が擁護されている。そして「It goes without saying that the freedom to confront critical topics is also possible here」と述べている。
「今回の作品は日本政府に批判的な傾向があるのは知っている。しかし、その内容は欧州の美術展や芸術展では通常のレベルだ。飛びぬけて問題となるとは思わない。今回の芸術展は建前の日本社会ではなく。本音を表現することを狙ったものだ。実際、これまで1万5000人が訪問した。その数は平均的展示会より多い」
――展示されている作品の制作者はいずれも反日、左派傾向が明らかだ。あなたは彼らが日本社会の「本音」を代表していると受け取っているのか。
「繰り返すが、われわれは日本人を中傷、誹謗する気持ちは全くない。日本社会の別の顔を紹介しただけだ。メディアの一部では、天皇陛下への批判、中傷を思わせる作品が展示されていると報じていたが、天皇の尊厳を傷つける狙いがあったとは受け取っていない。一種の風刺だ」
――日本大使館は支援中止を決めた。展示会はどうするのか。
「もちろん、今月24日まで開催する。中断する考えはない」
以上
陽気で饒舌なイタリア人の同氏は「どうか誤解しないでほしい」と繰り返し語っていた。当方は「誤解している」とは思っていない。展示会を見た正直な感想を述べ、質問しただけだ。同芸術展は芸術の名を借りた政治的プロパガンダに過ぎない。それをなぜ日本大使館は歓迎し、支援し、そして急転直下、支援を取り下げたかだ。今後の海外でのこの種の展示会を阻止するためにも「愛知トリエンナーレ」と「ウィーン美術展」から日本の外交官は教訓を学ぶべきだろう。「芸術」という名に騙されてはならない。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年11月8日の記事に一部加筆。