スマートウオッチで心房細動を見つける

今日のNew England Journal of Medicine誌に「Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation」というタイトルの論文が掲載されていた。内閣府の「AIホスピタルプロジェクト」でも、「簡便で非侵襲なウエアラブルな装置を用いた方法で、症状が自覚できない時点で心房細動を見つけることができれば、脳梗塞を防げる」可能性があると紹介しているが、それを実証してみせた論文である。

※画像はイメージです(写真AC:編集部)

合計419,297名のアップル・iPhoneのアプリを使用している、自分では心房細動を自覚していない方の協力を得て、脈が規則的か、不規則化をスクリーニングした。平均117日間のモニタリングで、2161名(約0.5%)の参加者に、脈が不規則である可能性があるとの連絡を行った。注意を受けとった人のうち、450名がさらに検査を受けたところ、34%が心房細動のあることが確認された。65歳以上では、35%と差は認められなかった。注意を受けてすぐに心電図検査を受けた方では84%に心房細動が確認されたとのことだ。

日本の脳卒中有病者数は300万人を超えると推測されており、脳梗塞だけでも200万人を超えていると思われる(しっかりした統計が見つけられなかったのでもう少し少ないかもしれない)。脳梗塞の大きな原因となっているのが心房細動で、心房細動の有病者数は100万人弱と推測されている(無症状で発見されていないものも含めるともっと多いかもしれない)。2025年には戦後の団塊世代が75歳に到達する。70歳以上の心房細動は2030人に一人と言われているので、今後心房細動、脳梗塞発症数が増えることは確実である。

脳梗塞は治療開始までの時間が短ければ後遺症なく治癒させる確率が格段に上がる。後遺症が残り、介護が必要になれば、介護保険があっても、家族の負担は大きい。本人にとっても、後遺症が残れば、生活の質を損なうことは確実である。スマートフォンで侵襲無く診断して、早く手を打てば、脳梗塞を防ぐことができる。しかし、日本では、脈拍や心電図を図るスマートウオッチが医療用機器に当たるので、規制の観点から利用することができないとされている。

不整脈などは異変を感じても、病院に検査を受けた時には正常に戻っていることが少なからずある。病院で異常がなければ、治療にはつながらない。個人個人が異変を感じた時に記録した情報が、病院で利用可能であれば、正確な診断と適切な治療につながる。

保険でカバーされるよりも、保険でカバーされなくてもいいような生活を送ることができる方が、患者にとっても家族にとっても幸せなはずだ。健康寿命の延長、要介護人口の抑制には、最適の課題であると思う。規制よりも人の命、生活の質の確保が重要である。国や政治家には、国民の健康を守る観点で判断して欲しいものだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。