2日の拙稿「主権侵害を許すな」についての補足

2020年01月04日 21:00

本サイトオーナーの池田信夫の論考「ゴーンの不法出国は「主権侵害」か」で取り上げたように、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が、ゴーン被告の日本国外脱出を手引きした民間警備会社社員の元グリーンベレー隊員を実名で報道している。

日本国外への脱出についてレバノン政府の関与が微妙になりつつあることから、2日の「ゴーン被告逃亡:安倍政権は主権侵害を許してはならない」で述べた拙論について補足する。

日産サイト、Wikipediaより

日本時間4日夕方までの段階ではレバノン政府が国外脱出に明確に関与した証拠は出ていない。関空からの出国時に何らかの形で外交特権を使うなど、同国政府が関与した可能性がゼロになったわけではないが、ゴーン被告の日本出国までのプロセスに関して「レバノン政府による主権侵害」の可能性は少なくなった。よって2日の拙稿で述べた主張、特にフランス政府関連については勇み足だった。

ただ、全面的な撤回や訂正をするには、今の段階では留保することをお許し願いたい。理由は3点。

1点目は、真相が明らかになる見通しが立ちそうにない点。ここまで専門家と電話やSNSで意見交換もしてきたが、フランス政府の関与について、上記でも指摘したDGSE(対外治安総局)の存在は気になるものの、国家が諜報機関を使って関与していたのであれば、JFK暗殺の背景のように、真相解明はかなり困難になる。もちろん、だからといって拙論の旗色が悪くなっても何も対応しないわけではなく、2日の段階では踏み込み過ぎた点は認める。

2点目は、近い将来の真相解明が難しいことを奇貨としてレバノン政府の名誉を毀損する意図は全くないが、同政府が何らかの形で関与している疑いはまだ残っている。

周知のように、昨年末に鈴木外務副大臣がレバノンの大統領と会談した際に、同国の法相からゴーン被告の釈放を要求され、さらにゴーン被告がレバノンに入国した際に空港まで政府関係者が出迎えに来たことなどが報じられている。この間、ゴーンサイドとレバノン政府が国外脱出にあたり、全くコンタクトを取らなかったというのは考えづらい。

そしていまもなおレバノン政府高官がゴーン被告の身柄引き渡しに消極的な姿勢を公言していることからしても、「全く」関与していないとは断言できない。

3点目は、プロジェクトの資金はゴーン被告が捻出し、リスクの高い違法な出国工作の「鉄砲玉」の役割を警備会社が担当、レバノン政府の関わりは入国受け入れと身柄引き渡し拒否に限定される今回のようなケースを国際法的にどう位置付けるか。

日本の司法制度の運用を妨害、「実質的に」日本国の司法権を侵害された影響が大きい割に、今回の保釈破りを個人的な犯罪に矮小化するのは違和感が拭えない(日本の司法制度の是非は別)。また、国家主権を侵害するアクターは国家だけでなく、テロ組織、民兵組織、政治的な活動団体(例、捕鯨活動を妨害する団体や尖閣に上陸する団体)、そして世界各地の紛争で戦線に立つ民間軍事・警備会社など、顔ぶれは多様化している。

どちらにせよ、日本の司法制度がこれまで直面しなかった、グローバル経営者による前代未聞のスケールでの保釈破りだが、日本とレバノンの外交問題になることは確定的だ。安倍政権がレバノン政府に対し毅然とした対応をすべきだという主張に変わりはない。ここまでのんびりと正月休みをとって首相が公に何の声明も出さず、のほほんとゴルフに興じている報道を見ながら複雑なものを感じている。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長

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