米イラン紛争はこれから正念場だ

2020年01月12日 11:30

トランプ米大統領はイランに対し、2点の対応を考えてきた。1つは、シリア、レバノン、イエメン、そしてイラクで軍事活動を支援するイラン革命部隊「コッズ部隊」を鎮圧すること、そしてイランの核開発計画を壊滅することだ。

トランプ米大統領とローハニイラン大統領(ホワイトハウスFB、官邸サイトより=編集部)

米軍が3日、その第1の目標、イラン革命部隊を指揮するカセム・ソレイマニ司令官を無人機で殺害したことで一応達成した。トランプ政権は対イラン経済制裁を強化する一方、次の目標、イランの核開発計画の壊滅に専心してくるだろう。

トランプ米政権にとっての懸念はイランがシリア、レバノン、イエメン、イラクで武力支援をし、中東情勢を険悪化させることだけではない。イランの核開発計画だ。米イラン紛争の第2の戦線は既に開始されているが、戦いはイスラエル、シリア、サウジアラビア、エジプトなど中東・アラブ諸国も関わってくるだけに、一層激化する危険性が排除できないのだ。

イランは2015年7月、国連常任安保理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と通称・イラン核合意を締結した。それを受け、ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)との間で包括的共同行動計画(JCPOA)が締結されたが、トランプ米大統領は2018年5月8日、「イランの核合意は不十分」として離脱を表明し、対イラン制裁を再開してきた。その対抗策として、イランは合意内容の履行を段階的に破棄し、核関連活動を復活させてきたわけだ。

イラン核合意では、イランは濃縮ウラン活動を25年間制限し、IAEAの監視下に置く、遠心分離機数は1万9000基から約6000基に減少させ、ウラン濃縮度は3.67%までと制限(核兵器用には90%のウラン濃縮が必要)。そして濃縮済みウラン量を15年間で1万キロから300キロに減少させることが明記されていた。

米国がイラン核合意を離脱したため、イランは、「欧州連合(EU)の欧州3国がイランの利益を守るならば核合意を維持するが、それが難しい場合、わが国は核開発計画を再開する」と主張してきた。

欧州の英仏独の3国は昨年1月31日、イランの核開発に関するJCPOAの継続に向けて、同国との円滑な金融取引のための特別目的事業体(SPV)である「貿易取引支援機関(Instex)」を設立した。米国が対イラン制裁を再開したことを受け、2次的制裁を懸念する欧州企業に合法的な決済手段を提供することが狙いだ。

しかし、多くの欧米企業は米国からの制裁を恐れ、イランとの経済活動から撤退した。欧州3国の支援に期待してきたイランは米国の圧力に対抗できない欧州3国の現状に失望。イランは核合意内容を段階的に破棄してきた。

具体的には、イランは①濃縮ウラン貯蔵量の上限を超え、②ウラン濃縮度も4.5%を超えるなど、核合意に違反してきた。③そして昨年11月に入り、フォルドウの地下施設でも濃縮ウラン活動を開始。同時に、重水貯蔵量の上限(130トン)を超えた。核合意ではウラン濃縮は同国中部のナタンツの1カ所だけだったが、イランのロウハ二大統領は今年1月5日、「ウラン濃縮関連活動を無制限に実施する」と表明したばかりだ。

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)=IAEAの公式サイトから

IAEAが3月の定例理事会で「イランが核合意を違反している」と公式に表明した場合、問題は深刻となる(IAEAが加盟国の要請を受け、3月定例理事会前に特別理事会を開催する可能性はある)。関係国の要請を受け、核合意協定36条に基づき、「紛争解決メカニズム」の手続きが開始され、イラン核合意の問題解決のために共同委員会が設置され、15日以内に問題が解決されない場合、関係国外相会合で協議され、国連安保理に問題解決を要請できる。

そこで30日以内に問題解決のための新たな決議案が採択されない場合、イラン核合意締結前(2015年7月前)の対イラン制裁が自動的に再発効することになる。すなわち、「イラン核合意」はその瞬間、完全に過去となるわけだ。

13年間の核協議の末締結したイラン核合意は欧州にとってイランとの唯一の外交チャンネルだ。ハイコ・マース独外相は10日、「イランの核合意を維持するべきだ」と強調し、紛争解決メカニズムの手続き開始には消極的な意向を表明している。

欧州3国はロシアと中国と共に、イランの核合意維持を主張してきたが、イランが核合意を放棄して、ウラン濃縮活動を促進し、濃縮度を20%超えた場合、核合意の維持は難しくなる。

トランプ大統領は8日、「欧州3国も米国と同じようにイラン核合意から離脱すべきだ」と要請している。状況はトランプ氏の願いの方向に向かっている。イラン核合意を巡る外交戦では死傷者は出ないが、中東全域に大きな影響を与えることは必至だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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