予算委員会の地上波中継はもう要らない

2020年02月05日 06:01

きのう(2月4日)の衆議院予算委員会「安倍首相 VS 黒岩議員」は目を覆いたくなる惨状だった。黒岩氏を巡っては事実無根の「久兵衛」発言をした遺恨があって(本人は否定しているが証拠は残っている)、安倍首相が後方の秘書官に耳打ちされた際に、黒岩氏に罵倒されたものだから「人間としてどうかと思う」とキレた。

安倍首相が怒るのは無理もないが、一国の宰相なのだから、森ゆうこ氏の真似事をしているような木っ端議員など、大相撲の番付でいえば前頭程度に過ぎまい。首相は横綱らしく小物議員の挑発をいなせばよかったものを、これでは国民からみて「どっちもどっち」の泥仕合に陥ってしまった。

予算委を茶番劇にするNHKのテレビ中継

この手の茶番劇が起きると、「予算委員会は予算のことを審議するはずなのに、どうして全く無関係の政治家のスキャンダルを取り上げるのか」という疑問がもたれる。そのあたりはこのFNNニュースの記事がよくまとまっているのでご覧いただければと思うが、予算が国政の執行上の根幹にあることから国政に関わることならなんでもありの世界に陥っている。

参議院予算委の模様(官邸サイトより)

そして茶番劇をひどくさせている原因が、NHK総合テレビの予算委員会中継だ。メディア露出の多い党幹部クラスではない野党議員にとっては全国中継で「テレビ映え」する千載一遇のチャンスだ。今年は衆院選がある可能性が高く、黒岩氏は前回選挙(新潟3区)でわずか50票差の辛勝だった。彼のような選挙に強くはない議員は、有権者の耳目を集めるために、党内外のブレーンたちといかにメディア受けするキーワードを仕込むかなどを考える。

告白すると、私もそういう裏方の仕事をやっていたことがある。作戦がハマって翌日の新聞でクライアントの議員の質問がデカデカと取り上げられた時はガッツポーズものだった。さすがに私の関わったケースでは、黒岩氏や森ゆうこ氏のような節度のない演出は仕込まなかったが、それでもこの手のパフォーマンスをやらかす議員やブレーンたちの心境は手に取るようにわかる。

テレビカメラの前で豹変する政治家

お笑い番組にたとえれば、中途半端にしか売れないひな壇芸人が、大物司会者にボロクソに突っ込まれてスタジオでは涙目、楽屋では笑顔…のようなものだ。いまごろ黒岩氏も「安倍総理に人間としてどうかと言われた黒岩です」と演説の前振りネタができて内心ほくそ笑んでいるだろう。

政治家は役者だ。テレビカメラが映ると変なスイッチが入る人もいる。元参議院議員の鈴木寛氏の著書によれば、民主党が消費増税論議で揉めていた際、会合の頭撮りに来たテレビカメラを見逃さないテレビ政治家の生々しい生態を暴露している。

テレビ政治家にとっては、どうしても自分が追及している画を見せたかったのでしょう。議論も何も始まっていない段階にもかかわらず、テレビカメラが入っているのを確認すると、テレビ政治家は手を挙げて立ち上がり、持論を展開し始めるのです。

(略)テレビの頭撮りが終わり、議論が始まると、そうした議員は会場にいません。会場の外でテレビカメラを前にぶらさがり取材を受けているのです。

にもかかわらず、その直後のテレビ番組では、民主党の消費増税を進めようとする執行部と、それに対し反対している政治家という構図の映像が流されるのです。(出典:鈴木寛『テレビが政治をダメにした』(双葉新書)40ページ)

もう原則ネット中継でよい

自民党は今はここまで酷くはないと思うが、仮に大逆風の選挙前になれば似たり寄ったりだろう。自民党の陣笠議員の質問でも、本筋より安倍首相らへのおべんちゃらを並べる人も少なからずいてうんざりする。

衆愚政治の極みともいえるテレビ映え狙いのパフォーマンス合戦を少しでも抑止するためには、NHK総合の地上波での放送を原則中止して、証人喚問等の重大局面にとどめるべきだ。パフォーマンスも完全排除はできなくても生中継で数千万単位の国民への生中継がなくなるだけで、インセンティブは少しだが削がれる。

ネットができない国民の知る権利を阻害するなどと抵抗する人も多いだろうが、そんなことはあるまい。上記の民主党政権崩壊から7年以上経ったいま、メディア環境は多様化した。

スマホ保有率は10代〜50代が9割超え、60代でも7割、70代ですら半数近くだ(※総務省調査)。NHKのニュースアプリで十分見られる。今年から5Gもはじまり、視聴環境もさらに多様化するだろう。シニア層でも政治好きならスマホ、タブレットを使って見るように家族や介護支援者などがサポートすればよい。

本来はメディアやデバイスに関係なく、中身の質を決めるのは政治家のモラルであり、本末転倒な話だが、与野党問わず、政治家の質の劣化は深刻だ。衆愚化の歯止めをかけるにはそれくらいの荒療治でなければ回復が難しいところに堕ちてしまっている。NHK総合が低次元の茶番劇を垂れ流すより、船越英一郎さんの「ごごナマ」でも見ている方が視聴者には有益だ。

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長

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