マスクの利益上乗せ転売禁止:古典的措置法をネット時代に適用

2020年03月11日 11:30

マスクの買い漁りが深刻化してから1ヶ月ぐらいが経つだろうか。政府がとうとう転売禁止の対応に踏み切った。その手段は、国民生活緊急措置法の政令改正である。

国民生活緊急措置法はその第26条第1項で、「生活関連物資等の供給が著しく不足するなど国民生活の安定又は国民経済の円滑な運営に重大な支障が生じるおそれがあると認められるときは、当該生活関連物資等を政令で指定し、譲渡の禁止などに関し必要な事項を定めることができる旨が規定」されている。

そして、関連する政令の改正によって、同法の規定に基づき、「衛生マスクを不特定の相手方に対し売り渡す者から購入した衛生マスクの譲渡を禁止する等の必要があるため、必要な措置」が定められた。

具体的には、「衛生マスク」を指定し、「衛生マスクを不特定の相手方に対し売り渡す者から衛生マスクの購入をした者は、当該購入をした衛生マスクの譲渡(不特定又は多数の者に対し、当該衛生マスクの売買契約の締結の申込み又は誘引をして行うものであつて、当該衛生マスクの購入価格を超える価格によるものに限る。)をしてはならない」と定め、「違反に対する罰則」を定めた(以上、経済産業省ウェブサイトより)。

政令の規定から、メーカーから小売までのプロセスには適用されない。当然、仕入原価から一定の価格を上乗せして再販売するので、これを禁止してしまえば「商売が成り立たない」。どこかのコンビニとかスーパーで仕入れたものを個人がネットで転売したり、他の小売店が店頭で転売したりすることを規制する措置である。

この措置は在庫商品の「小売間の横流し」というよくある流通にも該当することになるが、一般には売れ残り商品の引き取りとその廉売なので、今のマスク問題には無関係だろう。

国民生活緊急措置法は昭和48年(1973年)制定の法律である。そこからもわかるようにこの法律は石油ショックをきっかけに制定されたものである。独占禁止法が競争への弊害をもたらす事業者の活動を禁止し、自由市場の規律を「やや遠回し」に行うことに比して、国民生活緊急措置法は「よりダイレクト」に市場過程に介在するものであり、いわば「非常停止ボタン」のような役割を果たしている。

当時と今では、置かれた経済、社会状況が異なるが、法律の考え方は一緒である。現在「ネット販売」という当時存在しなかった販売手法で多くの問題が生じていることを考えれば「古典的な立法」の「現代的な適用」といえるだろう。

マスクの取引自体は当然合法なので「闇取引」のようなものは生じないだろう。国内では通常の価格に戻って行くだろう。ただ、卸売業者から入手した小売業者が「再販売」した場合の価格高騰の恐れがなくなった訳ではない(再販売価格維持は独占禁止法違反である)し、メーカーの段階で値上げをする可能性も否定できない。

そしてマスク転売問題が解消したとしても、需給バランスが崩れたままである限りは「行列」の解消にはならない。買い漁り行為の一つのインセンティブは消えたが、もう一つの(マスクを付けたくても付けられないリスクを減らそうとする)防衛行為としてのインセンティブをどう解消するか、そちらの方が全体としては重要な課題といえよう(増産するか、マスクの不要性を認識させるか)。

そもそもマスク買い漁り問題は、生産量の低下の思い込みによる「買い漁り」ではなく、みんながマスクを必要とする状況が急激に発生したことによる需給バランスの崩壊がその前提にあるのであって、この状況がいつまで続くか分からないが故に人々は買い漁るのである。「思い込み」がなくなれば問題が解消される訳ではない。とするならば価格が安定した状況で、単に品不足の状況が続くことになる。そのためのサーチコストが上昇して、(行列に並んだりする労力も含めて)結果的に、「高い買い物」となりかねない。

海外のサイトでもマスクは高額販売されている(欧州や米国でもマスク需要は高まっているようなので、今後、さらに価格が高騰するかもしれない)。品不足が続けばどうしても欲しい日本の消費者は「輸入」にすがることになるだろう。

仮に「ぼったくり」への憤慨を解消しても、マスク不足という国民生活への深刻な影響が解消されない限り、国民生活緊急措置法の狙いが十分に実現されたことには必ずしもならないのである。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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