デジタル活用教育にアクセシビリティ対応を②

2020年03月29日 06:00

新型肺炎の今こそ遠隔教育を充実させよと原英史さん・吉井勇さんたちが提言している。傾聴に値する提言だが、アクセシビリティ対応への言及が抜け落ちている。

「NHK for School」はNHKが提供する教育コンテンツで、放送された教育番組をそのままの形でネット配信する。教育番組放送時に字幕が付与されているので、ネット配信コンテンツにも字幕が付く。学年配当に応じて漢字表記・カナ表記を変えている点もすばらしい。話者に応じて字幕の色を変える場合もある。

NHK for School 公式サイトより

総務省は「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を定めている。複数人が同時に会話を行う生放送番組、外国語の番組、大部分が器楽演奏の音楽番組などを除く全ての放送番組に字幕を付与することがNHK教育放送に課せられた努力義務で、2018年度の実績では86.3%の対象番組に字幕が付与されている。

視覚障害者向けの音声解説については、権利処理上の理由により解説を付すことができない放送番組、2か国語放送や副音声など2以上の音声を使用している放送番組などを除く対象番組について、2022年までに19%以上、2027年度までに20%以上に付与するように同指針は求めている。音声解説付き放送番組の実績は19.8%。指針の要求水準は低すぎるといわざるを得ない。

同指針に沿って作られた教育番組をそのままネット配信するので、大半のコンテンツに字幕があり、大半に音声解説は付いていない。

一方、番組丸ごとではなく、一部を切り出したクリップには字幕も音声解説もない。映像・音声データと字幕データの同期を取る追加作業を行っていないからだ。

NHKは総務大臣の指導でインターネット活用業務全体に要する費用を「受信料収入の2.5%」に押さえられている。この上限があるので、邪推でなければよいが、教育用のクリップに字幕を付ける作業費用など賄えないのかもしれない。

そもそも教育番組の放送時にその番組を視聴するように授業を組み立てるのは至難の業で、ネット上のコンテンツを利用するほうが普通の利用方法だろう。TikTokが流行ったように、番組を丸ごとよりも1・2分のクリップのほうが子供たちに受け入れられるだろう。

多様な子供たちがNHK for Schoolのコンテンツを自由に利用するためには、番組丸ごとのコンテンツには音声解説を付与し、クリップにも字幕や音声解説を付ける必要がある。このようなアクセシビリティ対応の充実には、NHKによるインターネット活用業務費用の上限を撤廃するか、教育コンテンツは別勘定にしなければならない。

それが実現して、初めて、障害を持つ子どもたちもデジタル活用教育の利便を享受できるようになる。原さん・吉井さんたちの提言は、実は大きな政治課題を内包しているのである。

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山田 肇
ICPF理事長、東洋大学名誉教授

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