バチカンのペル前財務長官、無罪

2020年04月08日 11:30

オーストラリアのシドニーからの報道によると、1990年代に2人の教会合唱隊の未成年者に性的虐待を犯したとして昨年3月、禁錮6年の有罪判決を受け収監されていたバチカンの前財務長官ジョージ・ペル枢機卿(78)に対し、同国最高裁判所は7日、「被告(枢機卿)の犯行を証明するには不十分だ」として一審判決、そして昨年8月21日のビクトリア州高裁の控訴審判決を退け、5件全てに無罪判決を言い渡した。同枢機卿は判決の3時間後、自由の身となった。

▲控訴が棄却された当時のぺル枢機卿(バチカンニュース公式サイトから)

▲控訴が棄却された当時のぺル枢機卿(バチカンニュース公式サイトから)

同枢機卿はメルボルンの大司教時代に未成年者へ性的虐待を犯したとして犠牲者から訴えられてきたが、これまで一貫して無罪を主張し続けてきた。有罪判決を受けるたびに「自分は無罪だ」として、上告する枢機卿の信念には驚かされてきた。なぜならば、教会高位聖職者がこの世の裁判とはいえ、虚言を言い続けることが出来るだろうか、という素朴な疑問があったからだ。同時に、「それほど確信をもって言い切るとすれば、ひょっとしたら無罪かも……」という思いが払しょくできなかったからだ。

無罪判決直後、ペル枢機卿は、「大きな不正が清算された」と述べたが、裁判で枢機卿の性犯罪を訴えた証人(原告)に対しては何も言及しなかった。枢機卿の容疑は大司教時代、大聖堂合唱隊の2人の未成年者への性的犯罪だが、裁判ではその1人の証言が大きな影響を与えてきた。もう1人の証人は麻薬中毒で2014年死亡したため、公の場では枢機卿を1度も批判していない。

裁判では関係者の証言や証拠に基づいて、判決を下すが、誤審ももちろん排除できない。ぺル枢機卿の場合、本人が無罪を主張したが、状況は不利だった。なぜならば、犠牲者が裁判で赤裸々に証言し、それを聞いた陪審員は枢機卿の犯罪を疑わなくなっていたからだ。

また、ローマ・カトリック教会を取り巻く聖職者の性犯罪が至る所で発覚し、教会指導者への信頼は地に落ちていた。オーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会の暫定報告によれば、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、全聖職者の少なくとも7%が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで少なくとも1880人の聖職者の名前が挙げられているのだ(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。

そのような中で、オーストラリア最高裁が今回、一審、控訴審の判決を覆し、無罪を言い渡したわけだ。同最高裁は、「提出された証拠では被告が無罪と判決を受ける可能性も十分ある」と説明している。証言に少しでも疑いがあれば、有罪を言い渡すことは出来ない、という裁判官の基本的姿勢だろう。メディア報道によると、裁判官7人は全員一致で無罪判決を下したというのだ。

ペル枢機卿の裁判はフランシスコ教皇にとって心が痛かったはずだ。新設したバチカン財務省のトップに抜擢したのはフランシスコ教皇だ。それだけ、信頼してきた枢機卿だったからだ。同時に、バチカンのナンバー3の高位聖職者の性犯罪容疑はカトリック教会に致命的なダメージを与えてきた。フランシスコ教皇は昨年、枢機卿の有罪判決直後、同枢機卿を枢機卿会議(G9)から外し、財務省長官ポストからも解任している。

なお、原告側の家族は最高裁の判決にショックを隠せ切れない。原告側の弁護士は、「まったく考えられない判決だ」と怒りをあらわにし、被告に対し賠償金を要求する「民事訴訟」を始めるという。

ペル枢機卿の裁判は一応幕を閉じるが、聖職者の性犯罪は後を絶たない。バチカンニュースは昨年12月、「バチカンは2001年以来、6000件の聖職者の性犯罪を調査してきた」と報じた。この数字は実際起きた聖職者の未成年者への性的虐待総数の氷山の一角に過ぎないだろう。実数はその数倍になるものと受け取られている(「聖職者の性犯罪6000件の『重み』」2019年12月19日参考)。

ちなみに、バチカンニュースによると、日本のローマ・カトリック教会司教会議は4月5日、同国内の聖職者による未成年者への性的犯罪に関する報告書を公表した。報告書によれば、1950年から今日まで16件の性的犯罪が報告されたという。ただし、ここでも「この数字は氷山の一角に過ぎない」と受け取られている。なお、フランシスコ教皇は昨年日本を訪問したが、その直前、月刊誌「文藝春秋」3月号の中でルポ・ライターの広野真嗣氏が「“バチカンの悪夢”が日本でもあった! カトリック神父<小児性的虐待>を実名告発する」という記事を掲載している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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