ローマ・カトリック教会関連施設内で聖職者による未成年者への性的虐待事件はもはや珍しくないが、シドニーで公表されたオーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会の暫定報告はやはり衝撃的な内容だった。
オーストラリア教会で1950年から2010年の間、全聖職者の少なくとも7%が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで少なくとも1880人の聖職者の名前が挙げられているのだ。すなわち、100人の神父がいたらそのうち少なくとも7人が未成年者への性的虐待を犯しているという数字だ。
同国王立調査委員会の最終公聴会が6日、3週間の日程で開催されているが、暫定報告書によれば、加害者の90%は男性。その内訳は約32%が修道僧、30%が神父、29%が教会関連施設内で働く平信者、5%が修道女となっている。犠牲者の平均年齢は少女で10・5歳、少年で11・5歳だ。被害者数は4444人。
報告書によれば、教会側は事件が発覚すると、性犯罪を犯した聖職者を左遷する一方、事件については隠蔽してきた。だから、事件が発生し、加害者が実際告訴されるまで平均33年間の年月がかかっているのだ。教会が組織ぐるみで事件を隠蔽してきた実態が浮かび上がる。
オーストラリアのシドニー大司教区のアンソニー・コリン・フィシャー大司教は「驚くともに、恥ずかしく感じている」と述べている。同国司教会議は2013年以来、委員会を設置し、事件の調査に協力してきた。
2014年までシドニー大司教だったジョージ・ぺル枢機卿(現「枢機卿評議会」メンバーの一人)も昨年2月、事情聴取を受けている。その際、同枢機卿は「教会は大きな間違いを犯した」と証言したが、自身が事件を隠蔽したことはないという。当時、オーストラリア教会最高指導者の同枢機卿が全く事件を知らなかったとは到底考えられない。しかし、バチカン法王庁高位聖職者の同枢機卿は口が裂けても「知っていた」とは告白できないのだろう。なお、今年12月には最終報告書が公表されることになっている。
欧州教会では2011年7月20日、ローマ・カトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待事件を調査してきたアイルランド議会が、「バチカン法王庁は聖職者の性犯罪調査を妨害してきた」と指摘、バチカンを非難する声明文を採択したことがある。
同国のエンダ・ケ二ー首相は当時、「バチカンはエリート意識と自己愛の文化に支配されている」と述べているほどだ。
教会聖職者の未成年者への性的虐待問題で欧州連合(EU)加盟国の首相がバチカン法王庁を名指しで非難し、議会が非難声明文を採択したのはアイルランドが初めてで、異例のことだった。オーストラリア教会の聖職者の性犯罪を調査する委員会がどのような調査結果をまとめるか注目される。いずれにしても、オーストラリア教会の聖職者性犯罪報告書はアイルランド教会のそれを凌ぐ衝撃を世界の教会内外に投じることは残念ながらほぼ間違いないだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。