全国に発令された緊急事態宣言
4月17日に緊急事態宣言が全国を対象に発令され、予断を許さない状況が続いています。
新型コロナウイルスの大流行は、私たちの生命財産を脅かすだけでなく、実体経済のあらゆる部分に大きな影響を及ぼしています。
こうした状況を踏まえ、一日でも早くこの新型コロナウイルス感染症の拡大を終息させるとともに、感染症対策を抜本的に見直し、国民の生命及び健康を守ることは日本において最優先の課題です。
またこのような有事においては、既存の発想にとらわれず、大胆な意思決定に基づき社会を変革し、国民の生命・財産を守ることが私たち政治に関わる者には強く求められます。
したがって、国権の最高機関である国会をはじめ、政府、行政、政治に関わる者が、新たな技術を活用し、民間の模範となるような姿を示すことは極めて有益であると考えます。こうした観点から国会のデジタル改革を進めることを推奨します。
国会デジタル改革に重要な3つの視点
国会デジタル改革による対策は、危機管理、業務効率化、共生社会などの観点から必要です。
最初の視点は、危機管理です。
ウイルスの流行により、人との接触という最も基本的な活動が大きく制限されることになりました。
業務を継続するためには、テレワークなど、人と人との接触機会を軽減するとともに密閉、密集、密接の3つの密を防ぐ場所にとらわれない働き方が重要です。
国民の生命・財産を扱う立法や行政の業務を止めることはできませんので、業務継続性の観点からも国会のデジタル変革が必要です。
次の視点は、業務効率化です。実際の移動や紙を伴う業務は、時として大きな非効率を生み、国会・行政に関わる者の生産性の低下を招いています。
世界的にも新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、現金やクレジットカードなど頻繁に触れる物体を通じた感染拡大に対する懸念を踏まえ、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)に関する議論が加速しています。
最後の視点は、共生社会です。
我が国も批准している障害者権利条約において、情報通信技術を活用し、障害者に対しあらゆる社会参画の機会を保障することがうたわれています。
共生社会を実現するためにも、あらゆる国会・行政のデジタル変革は不可欠であり、オンライン国会の実装を進めるべきであると考えます。
国会デジタル改革とオンライン国会実装に向けた具体的な手法
オンライン国会とは、議員及び行政関係者の全員または一部がオンラインによって参加できる国会運営の手法です。
有事には国会の業務継続性を担保するだけではなく、平時には国会への登院が困難な障害のある方々などが、国会に参画しやすい道筋が拓かれます。また、間接的には業務効率化の効果が期待できます。
国会のデジタル化を進め、オンライン国会を開催するためには法・規則・制度の整備が必要であり、まず行うべきことはオンライン国会に対応した法の解釈並びに規則の整備です。
現在、衆議院、参議院の議会運営にかかることが定められているのは、憲法、国会法及び衆議院規則と参議院規則でありますので、これらの関係条文をオンライン国会の開催が可能となるようにするための改正案の検討が必要です。
具体的には、本会議、委員会における遠隔での出席、趣旨説明、質疑、討論、議員の議決権確保を目的としたデジタルデバイスの活用による遠隔電子投票に関する規定の整備などが必要です。
改正する箇所の例として衆議院でいえば、規則第148条の議場にいない議員の表決にて「表決の際議場にいない議員は表決に加わることができない。」とされておりますので、こちらの改正が必要です。
また、必要があれば憲法や国会法に定められる「会議への◯分の一以上の出席」に関しては、オンラインによる出席でも可能な旨を解釈できることを明確化すべきです。
更に、本会議、委員会において外部との必要情報の収集・共有を目的としたインターネット接続による電子メール及びSNSメッセージの送受信及び必要情報の検索などを行うためのパソコン、タブレット、スマートフォンなどの利用許可は様々なオペレーションを効率化させます。
オンライン国会開催のための環境整備
そしてオンライン国会を開催するためには、各議員が扱うデジタルデバイスや国会の通信環境などの総合的な環境整備が必要です。
具体的には、必要な資料を紙媒体以外の方法で共有することを目的とした、デジタルデバイス接続の画像投影機等のスクリーンの設置並びにパソコン、タブレット端末などを利用したオンライン会議システムの実装を進めることが必要です。また、本会議場、委員会室、会議室など国会、議員会館などにおける無線LAN通信の環境整備が必要です。
それに加え、オンライン国会の開催をサポートするスタッフのための環境整備も不可欠です。
院における官製パソコンは重量・スピード共に非常に重く、昨今のデジタル化に耐え得る端末にはなっていないという意見が寄せられている現状に鑑み、端末の軽量化、処理速度の向上、テレワークに対応したカメラ・マイクの設置などスペック向上に関する多角的な検討を図ること必要です。
更に院より与えられた公式のメールアドレスの使用や資料の閲覧を議員会館外部からでも行えるような操作方法を検討し、利便性と高度サイバーセキュリティの両立を踏まえた仕組みを再構築することが機動的な国会運営に繋がります。
そして、オンライン国会を開催するために、各議員及び衆議院・参議院の事務局職員・会派業務を担うスタッフなど関係者におけるデジタルリテラシーの向上が不可欠です。
時代のニーズに対応した国会改革が今こそ必要
国会の権威と品位が大切なことは言うまでもありませんが、時代の変化に対応したアップデートが国会にも不可欠です。
こうした中、英国の庶民院(議会下院)では、700年の歴史を持つ下院で初の試みとして、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を活用した審議を導入すると発表しました。
Zoomは情報漏洩等セキュリティ上のリスク上が指摘されており、どのシステムを使うのかに関しては議論の必要がありますが、そもそも国会の議論は国民に公開することが前提でありますので、オンライン国会の内容はむしろ国民へ広く配信すべきです。
いつの時代も技術革新に対応できなかった国や組織は、新興勢力に打ち負かされて衰退してしまうという現実は、歴史を振り返っても明らかです。
戦国時代、最強と言われた武田の騎馬隊は、織田勢が導入した新兵器である「鉄砲」を用いた戦略の前に大敗した歴史は、日本人にも馴染みが深いところです。
こうした教訓から学べることは、テクノロジーの進化を止めることは不可能であるため、進化を止めるのではなく、健全に発展させて、その恩恵を公平公正に社会へ分配していく知恵が求められているということであります。
デジタルオアダイと言われる時代の転換期に、OECD加盟国における多くの議会でデジタル化、オンライン化が進んでいる現状を踏まえ、日本の国会における議論を早急に進める必要があります。
今回の視点は、世界的にも官民問わず、デジタル化、オンライン化が進んでいる現状を踏まえ、喫緊の国会改革における記事を書きました。今後は、プログラムに基いて自動的に契約を実行できる技術であるスマートコントラクトを活用した行政事業改革や政党におけるデジタル変革と、中長期的な視点から、国民国家のグランドデザインをデジタル変革の視点から再構築する必要性について付言して参ります。