創業家より:朝日新聞社さん。脱法ガバナンスは止めて下さい --- 村山 恭平

2020年04月26日 06:01

先日の、私の伯母村山美知子の死去に伴い、大量の朝日新聞社株式が、公益財団法人香雪美術館に遺贈されることになりそうです。これにより、株式持ち分が21%に倍増し、新聞社の経営に大きな影響力を持つ公益財団法人が誕生する運びです

「香雪」と言ってもほとんどの方はご存じないでしょう。私の祖父、村山長挙が設立した小さな美術館で、公益法人なので税制面で優遇され公的補助金の対象にもなっています。

香雪美術館(公式サイトより)

公益法人としての特権を持つ美術館が営利企業の株を大量保有することには、もとより問題がありますが、それが別種の特権をもつ新聞社株である場合、以下にお話しするように、極めて大きな矛盾を抱えることになります。香雪美術館は、今回は遺贈を辞退するか、受贈後直ちに売却すべきであると思います。

公益法人法と日刊新聞紙法が求める株主像の「相反」

まず、公益法人が営利企業の株式を保有するのは原則禁止です。幹部人事も互選で身内優遇が許され、納税どころか補助金まで受ける公益法人が、営利企業の経営に手出しをするのは、税法上も会社法上も社会正義に反するからでしょう。

ただし、いくつか例外があります。その一つが「基本財産として寄贈」された場合です。「この株の配当で、盲導犬を育てて下さい」というようなケースです。

それでも様々な制約があり、持ち分比率が20%を越えると「当該公益法人と当該営利企業との関係(人事、資金、取引等)」などを監督官庁に毎年報告しなければなりません。紛らわしいことをしないか見張ってるぞ、というわけです。

Wikipedia

一方、新聞社の株式にも特異なルール、日刊新聞紙法があります。たとえば朝日新聞社はこれに基づく定款で、株主の資格を「事業関係者」に限っています。しかも、社員以外の「事業関係者」の認定は原則的に取締役会がすることになっています。つまり、経営陣が好き勝手に株主を選べる各新聞社は、会社法上の特権階級なのです。

こんなことを許してしまう日刊新聞紙法は、新聞にまだ公共性があった時代の遺物としか思えません。収益面では全国紙でも「取材もする賃ビル会社」になりつつある現在では、常識的に考えて悪法でしょう。さらに、新聞社が他社と株式の持ち合いをすることなど、立法時にすら想定外だったでしょう。脱法行為の温床そのものです。たとえば、LINEやGoogleが輪転機を導入すれば、経営陣は株主を選別できるのでしょうか。

これに、公益法人を組み合わせれば、もっと「洗練」された手口もできます。日本中に、経営不振の地方紙は山ほどあるのですから、安く買収して自分たちの「株式持ち合い」に組み込み、一部の株式を支配下の公益法人に寄贈してしまえばいいのです。たったこれだけのことで、持ち合いの強度が上がり外部からの手出しは難しくなります。

経営者が将来の院政を施くなどには最適な方法で、あらゆる業種で使えます。こういうのが横行すれば、朝日新聞社が悪しき前例になるのは目に見えてます。日刊新聞紙法の趣旨から言えば、日経さんのように、株主は社員やOBなどの個人に限定され、経済的利益を犠牲にしてでも会社を外部の買収から守る、というのが「正しい」新聞社のありようなのでしょう。

このように、公益法人法の求める株主像と日刊新聞紙法の求める株主像は、真逆と言えるほど乖離しています。前者には経営に参加しないことを、後者には経営に適正に参加することが求められているのですから、どうやっても矛盾が出てきてしまいます。

そのためか、公益財団法人が全国紙やブロック紙の大株主になっている例は、読売の正力財団と朝日の香雪美術館だけです。日本で2例しかない特殊な状態なのです。

朝日新聞グループの頂点は「脱法持ち株会社」?

ではその香雪美術館の実体ですが、まず株の保有関係を見てみましょう。持ち株関係図をご覧下さい。これは美知子からの遺贈が成立した場合の状況です。公益財団法人が持ち合いネットワークの中心にいるのですから、これだけでも、脱法持ち株会社と言われても仕方ないのではないでしょうか。

次に、人事です。理事9名のうち6名が朝日系メディア企業の出身です。理事長・副理事長・専務理事のトップ3は、全員が朝日新聞出身で、他に、現役の朝日新聞社長、テレビ朝日会長、朝日放送元社長の3人が名を連ねています。

この面々、私の知る限り美術や茶道具に情熱をかけていたと思える人は皆無です。おまけに、うち4人は東京在住。はるばる神戸市まで御苦労様なことです。よほど何か特殊な目的があるのでしょうか。残り3名の理事は、弁護士(よく朝日新聞関係者と仕事をしておられます)、宗教家、経歴不明(恐らく元地方公務員)で、理事の中には、美術の専門家とお呼びできるような方は1名もおられません。顔ぶれだけ見れば、まるで持ち株会社の役員名簿です。

結論を言います。資本の面でも人事の面でも、香雪美術館は朝日新聞社・テレビ朝日・朝日放送の3社間の持ち合いネットワークの中心にあり、3社の幹部や元幹部が乗り込んできて理事会を支配している、との嫌疑を払拭し切れない状況なのです。

「紛らわしい」ガバナンスの背景

では、なぜそんな紛らわしいことが許されているのかと言えば、前述したように、香雪美術館は朝日新聞社株を「基本財産」として保有し、配当全額を「美術に関する分野を学ぶ学生」への奨学金事業に使っているからです。

この事業は2008年に美知子が、保有する新聞社株の一部を寄贈したことに始まります。しかし、当時の伯母がこうした学生たちに興味を持っていたとはとても思えません。それどころか、茶道具や美術を学問的な視点で考えることを、露骨に軽蔑していたふしがあります。

たとえば、私が茶碗を前にして制作年代などを質問すると、「そんなことは忘れて自分の目で見なさい」と叱られたものでした。理屈や耳学問が大好きな私でさえ、このまっすぐな視点に大いに感動したのを覚えています。

また、全盛期の村山家には書生が何人もいましたが、後に美術系の学者になった人を全く知りません。晩年になった伯母が本気で研究者育成を支援しようなどと考え、私財を投入するなど有り得ない話です。

村山家にとっては論外の話

そもそも、この奨学金事業は、新聞社株を受け入れるにあたり、美術館の公益性を保証するために、株式を基本財産として受け入れ、配当金は奨学事業以外には使わないことを国税庁に約束するために始まったと聞いています。要は、香雪美術館が株を持つための口実としての側面が強いのです。

そして、今回の遺贈では、その側面がさらに強化されるということになります。

遺言書には奨学金事業のことなど一言もでてきません。伯母の口から奨学生の話題が出たことも、私たちの知る限りありません。長年の闘病中に見舞いに来た奨学生・元奨学生も、1人も見たことがありません。伯母が奨学金事業の拡大を望んでいたことなど、有りそうもない話です。ましてや、美術館の持ち株会社化など論外でしょう。

日刊新聞紙法や公益法人法を悪用した脱法行為が、村山龍平の雅号「香雪」を名乗る組織で行われることや、そうした嫌疑をうけることを、村山家としては容認できません。紛らわしいことは、絶対におやめ下さい。

村山 恭平

【編集部より:訂正27日12:00】図の一部の誤りと誤字を訂正しました。

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