自治体間競争に勝ち、「経済なき道徳」を打破しよう --- 守屋 輝彦

こんにちは、守屋てるひこです。神奈川県職員を18年、神奈川県議会議員を2期8年間務めておりました。私は、今起きている自治体間競争に勝ち抜く必要があると考えており、そのために何が必要かを、全国の自治体事例や法案などに触れつつお話させていただきます。

fujiwara/写真AC:編集部

企業間競争はしきりに話題になりますが、自治体間競争はあまり一般の皆様には話題になりにくいかもしれません。自治体なんて競争意識もなくただ漫然と経営してれば良いと思われている方もいるとおもいます。しかし、今や自治体が競争に勝たなければならない時代になりました。実際に、どのように自治体間競争が起こっているか、お話ししていきます。

コロナ禍の中で、基礎自治体はその役割を今こそ発揮すべき時となっています。全国的な自粛要請の中で自治体が地元経済のため、自治体住民のために、どのような施策を講じるか一挙手一投足に注目が集まっています。この対応結果の如何では住んでいる自治体から引っ越そうとする人もいるでしょう、逆にこの自治体なら安心できると信頼を集める自治体もあり、魅力評価に大きな差がでることが考えられます。

例えば、兵庫県明石市などは賃料の緊急支援や児童扶養手当に上乗せ支給など手厚い給付措置をいち早く取り話題となりました。私のいる小田原市から県境をまたいでご近所、御殿場市では緊急事態宣言直後に休業店舗へ一律100万円の支給をすることを発表し話題となり、見事に自治体のブランド力を上げることに成功したと言えます。今回のコロナ禍では自治体対応に差があり、一般的にもわかりやすく、住民はしっかりみています。

100万円の休業補償が話題になった御殿場市と緊急支援事業について説明する明石市の泉房穂市長(東京2020公式事前トレーニングキャンプ・オンラインガイドサイト、サンテレビYouTubeより:編集部)

コロナ禍の話題ばかりで目立ちませんが、先月4月15日には国会でスーパーシティ法案が成立しました。スーパーシティ構想とは、AIやビッグデータを活用し、未来都市を加速実現させる構想です。スーパーシティを目指す自治体が区域指定をし、議会承認と住民合意を経て政府が認定することで実験都市となることが出来ます。

実験都市となり、民間企業との連携によりプロジェクトを進められれば、日本だけではなく、世界的にも有名な先進都市となるチャンスが生じます。こうした動きにより、ますます自治体間競争が激しくなっていくことは間違いないでしょう。もちろん、コロナ禍を乗り切った先のお話ですが、勝ち抜くことが求められているというわけです

自治体独自の取組みはスーパーシティ法案の前からも様々なものがありました。自治体には投資の発想がなかったのですが、札幌市の【札幌元気ファンド】などを先行事例とし、自治体と金融機関やベンチャーキャピタルが協力して地域ファンド運営などの動きも全国至る所で始まっております。未来を見据えた地域は積極的に地元企業育成に取組んでいます。山口県長門市は星野リゾートと組み、【長門湯本温泉観光まちづくり計画】を策定し、温泉街再生計画をすすめており、新たな形で自治体への投資を呼び込んでいます。

「長門湯本温泉観光まちづくり計画」の一環として3月12日に開業した「星野リゾート 界 長門」(星野リゾート公式サイトより:編集部)

しかし、自治体が機動的に施策を展開するためには予算が必要です。思いやりだけでは政策実現はできません。今回のコロナ対応についてもお金がなければできないことでした。2009年に財政健全化法が本格施行されてから10年余り経ち、財政調整基金という自治体の貯金が全国的に貯まっていたタイミングだったこともあり、自治体独自の給付などを今回行う財源とすることができました。

しかし、この災厄を乗り越えた後は貯金をなくした財政の立て直しを図っていかなければなりません。ただ貯金しているだけでは駄目であり、稼ぐ力をつけねばならないのです。つまり、地域経済を活性化させ、街に人を賑わせ、競合地域よりも活気のある自治体にならなければなりません。全国の自治体でコロナ騒動が終われば、よーいドン! で一斉に行なわれることになるでしょう。

これまでよりも、さらに熾烈な自治体間競争が始まります。都市間で争うことなく、成り行きに任せるなどといったきれい事では治まりません。自治体間競争に負ければ地域は確実に衰退していきます。故郷が消えてしまうかもしれません。

それでは、どのような理念をもって、既に起きている自治体間競争で生き残りをかけるべきなのでしょうか。私は、小田原出身の偉人、二宮尊徳翁が残した考え「経済なき道徳は戯れ言であり、道徳なき経済は犯罪である」をモットーとすべきだと考えます。

これまで「経済なき道徳」が自治体では尊ばれてきたように思います。もちろん、理想を掲げることは素晴らしいですが、これからの自治体経営は競争に打ち勝つ強さが求められる時代となります。強さも必要なのです。

企業誘致や観光誘客を進め、住民の暮らしを豊かにし、課題解決をはかりながらも自治体の財政基盤を再強化していかねばなりません。自治体間で切磋琢磨することで、日本全体の力もつくでしょう。

首長が理想だけを掲げてニコニコしていれば良い時代は終わりました。道徳と経済の両立により、全国の津々浦々で、新型コロナウイルスに打ち勝ち、競争に勝てる自治体へ地域の力を結集し、未来のこども達に明るい都市を送りましょう。

守屋 輝彦  前神奈川県議会議員(小田原市選出)、慶応義塾大学 SFC研究所上席所員
1966年、小田原市生まれ。東京電機大学建築学科卒業、東京大学大学院修了(都市工学専攻)。1992年から2010年まで神奈川県庁で勤務。2011年神奈川県議選初当選。2019年で2期目退任。小田原市長選(5月17日)への出馬を表明。公式サイト