「コロナ後」に一億総在宅社会は到来するのか? --- 工藤 洸

2020年05月07日 06:00

fujiwara/写真AC

これまで日本社会で遅々として進まなかった働き方改革だが、コロナ流行により、多くの人の働き方が変化している。

パーソル総合研究所の調査によれば、テレワークの実施率は、3月9~15日の調査では13.2%だったが、4月10~12日の調査では27.9%に増加した。これだけ短期間でこれだけ多くの人の働き方、もっというとライフスタイルが大きく変化することは、歴史的に見ても稀だろう。

現在の状況では、テレワークを自宅でする人が多いと思われる。普段であればカフェなどで仕事をしている人もよく見かけるが、今はいたるところで感染リスクが喚起され、外出自粛要請やお店にも休業要請が出されているため、いわゆる在宅勤務をしている人が大半だろう。

気になるのは今後どうなっていくかだが、それは今後のコロナ流行の動向によるところが大きいだろう。

仮にハーバード大学の研究チームの論文が予測するように2022年まで外出規制などの措置を断続的に続ける必要があるとすれば、日本の在宅勤務の状況はどうなるだろうか。在宅勤務をする人や日数の割合がさらに増加して、日本は「一億総在宅社会」となるのだろうか?

この問いに対しては、「在宅勤務ができない業種・職種がある」という意見が真っ先に出そうだが、それは本質的なポイントではない。例えば、今まさに最前線でコロナと戦って下さっている医療従事者の仕事は、在宅勤務が不可能な仕事の典型に見える。

だが、オンライン診療を解禁するなど、在宅勤務が可能になる業務が増える方向に進んでいる。ここで問いたいのは、全ての仕事が例外なく在宅勤務になるかどうかではなく、日本社会全体がまとまって一斉に在宅勤務という方向に向かうのかどうかである。

結論としては難しいだろう。その理由として、第一に、在宅勤務というものにも格差が潜んでいることがある。先ほど引用したパーソル総合研究所の調査は、在宅勤務が増加したという結果に目がいきがちだが、他にも気になる調査項目が2つある。

1つ目は正規社員と非正規社員のテレワーク実施率の違いを調査した項目、2つ目は企業規模によるテレワーク実施率の違いを調査した項目だ。結果は、正規社員が実施率27.9%に対し、非正規社員は17.0%。企業規模が大きいほど実施率も高い。

第二に、「居場所」問題がある。家族と同居している場合、自宅で仕事する居場所を確保するのは難しい。日経新聞の記事が指摘するように、日本では職場で長時間仕事することが前提になっているため、自宅で仕事をできるような住宅設計になっていないことが多い。最近ホームセンターではテントの売り上げが伸びており、中にはリビングの隅に設置できる「プライバシーテント」というのもあり、この製品への問い合わせが殺到しているそうだ。

それでは、一人暮らしならば問題ないかというと、そこにはまた別の「居場所」問題がある。再びパーソル総合研究所の調査を引用すると、テレワークの課題として37%の人が、「会話が減ってさびしさを感じる」と回答している。今まで職場で長時間労働してきた人が在宅勤務になれば、人とのつながりが激減するのは明らかだ。

「今の時代、自宅にいてもインターネットで人とつながれる」という意見もあるだろうが、東浩紀氏が言うように、「ネットは強い絆をどんどん強くするメディア」であり、「通信の自由」は「集まる自由」の替わりにはならない。つまり、在宅勤務が家族とともに暮らす人を窮屈にさせ、一人暮らしの人を孤独にさせてしまう恐れがある。

まとめると、今後も在宅勤務は増えていくだろうが、日本社会全体がまとまって一斉に在宅勤務という方向に向かうのは難しい。格差問題も居場所問題も今に始まったことではないが、コロナ流行によってそうした問題が浮き彫りになったり、それが在宅勤務を妨げてしまうこともある。

最後に念のために言うと、私は在宅勤務に反対しているわけではない。むしろ、働き方の選択肢・多様性が増えることは喜ばしい。実は私自身、今回のコロナ流行で初めて在宅勤務を経験している。通勤時間がなくなったり、今までほとんどできなかった平日に家族や地域と交流するということができたりと、メリットも多い。

ただ同時に、「ステイホーム」と英語でかっこよくスローガンを掲げたところで、みんなが一斉にできるものではないというリアルも感じる。「危機の時代は、これまで隠されていた人間の卑しさと日常の危機を顕在化させる」という歴史家の言葉が重く響く。

工藤 洸(くどうこう)
会社員として勤務する傍ら執筆活動。専門は政策過程研究と社会批評。興味・関心テーマは「子ども食堂」。

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