対コロナ「ゼロリスク政策」の根底にある(?)古来思想

加藤 拓磨

営業休止で経営危機の事業者が続出(HAMANO/flickr)

さも“科学的”に今回の新型コロナウイルスに対応しているように見せかけながらも、今まさに“感情的”な対応になろうとしている。

この状況は過去にも見てきた。

繰り返される「ゼロリスク」要求

例えば、東日本大震災後の福島第一原発事故による放射線量、築地・豊洲の土壌・地下水の環境基準しかり、世論はゼロリスクを求めがちである。

ゼロにすることは不可能であり、またゼロに近づけようにもその費用に莫大な費用、犠牲が払われることになる。そして、どちらも時間の経過とともに誰も気にすることがなくなった

自分の周りで被害がない時間が継続することで、恐怖がなくなるのだろうか。

せっかくの科学の進歩で様々な検査、調査、分析、予測などができるようになり、政策判断ができるようになったにも関わらず、結局は感情的なところでストップがかかっている。

感覚・感情ではなく、科学的根拠を持った正論で政策を語るべきである。

これまでの事例とは異なり、緊急事態宣言を解除する決断をしなければ、経済が立ち行かなくなり、国が転覆する。

私も多くのアゴラ執筆陣と同様の考えで、緊急事態宣言のあり方に疑問を持っている。

BCG接種率、靴を脱ぐ生活様式、東アジア人種の遺伝的耐性、様々な説が挙げられているが、そもそも日本においては例年のインフルエンザほどの災禍まで至っておらず、先日寄稿した「コロナ自粛継続なら最大で自殺者6万人!? 出口戦略の早期検討を!」で提唱したように自殺者数を増加させる可能性がある現状を見過ごせない。

5月4日の時点で緊急事態宣言の解除を予告すれば、残りの連休期間で緩みが生じるために再延長は致し方ないと考える。

しかし、いつまで自粛期間は延長するのか。

おそらく政府は3月上旬頃の新規感染者数について言及することから、全国で100人以下のオーダーに抑え込みたいのであろう。

ゼロリスク思想の根底にあるもの

しかし国民全体の意識としても何故、このように放射線量、水質基準、感染者数など限りなくゼロを求めるのだろうかと考えたときに井沢元彦氏の著書「逆説の日本史4 中世鳴動編:ケガレ思想と差別の謎(小学館)」などの内容を思い出した。

日本人は古代からケガレを恐れる思想がある。

ケガレ(“穢れ”)は日本人の独特の感性で、感覚的に忌み嫌う、恐ろしい、人災をもたらすヒト、モノ、コトを示す。争い、血、死、和を乱す行為などはケガレといえます。

また集団意識が強い日本人は今回の自粛要請に応えられる素養を持っている。

逆に今は自粛ができない和を乱す行為は、ケガれた行為となる。

このケガレの観念・思想が手洗い、マスクなどの予防に対する理解につながるともいえるが、科学技術的な証拠を突き付けても何となくケガれているという感覚があり、政策判断ができないのであれば「時代錯誤」となる。

このような思想から、おそらくコロナの新規感染者数だけの議論であれば、ゼロにならない限り、事態は落ち着かないであろう。

感染者をゼロにすることに注力され、経済活動へ向けての出口戦略が示されてこないため、上述のコラムでは自殺者数とコロナ起因の死者数を比較すべきと提言させていただいた。

自殺とコロナ死のケガレ同士を比較するのが日本人の感性として理解しやすいと考える。

GDP最新予測から自殺者数をあらためて試算

寄稿当時はまだコラムの影響を受けたGDPの予測がなされていなかったが、連休中に予測値が発表されているので改めて分析をしたものを示す。(試算過程は文末に示す)

1~3月GDPマイナス 4~6月さらに悪化か 民間予測(NHK)」では

今月18日に発表されることし1月から3月のGDP=国内総生産は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で年率に換算して3%台から6%台のマイナスになると民間の調査会社が予測しています。4月から6月のGDPはさらに落ち込み、20%を超える厳しいマイナスになるという予測も出ています。

とあり、4月から6月のGDPは年率20%で自粛が年内12月まで継続されると仮定すると、2020年の年間のGDP成長率はおよそ16%になるだろう。

ここで上述のコラムで算出したGDP成長率と自殺者数の関係図を示す。

過去の傾向から、2020年いっぱい経済を回さなければ6000人以上が自殺をされてしまう。またGDPのマイナス成長が2021年末まで維持されれば、25000人以上が自殺する試算結果となった。

新型コロナウイルスでの死者数は5月5日現在で、521人である。

コロナ患者・死者数の減少、医療体制の維持はもちろんであるが、経済活動を止めることによる影響を総合的に勘案した政策決定を行っていただきたい。

図1 GDP成長率と増加した自殺者数の関係

試算過程

景気と自殺者数には相関があるといわれているが、明確な相関関係が示された推定式がなかったために著者が算定したものである。

図2に計算過程を示す。

基本的に使用する値はGDP完全失業率自殺率である。

図2 計算過程

図3にGDP成長率(いわゆる変化率)と前2年平均、完全失業率変化率(軸反転)の経時変化を示す。

GDP成長率前2年平均と失業率の関係は負の相関が高そうである。

図3 GDP成長率と前2年平均、完全失業率変化率(軸反転)の経時変化

図4にGDP成長率前2年平均と完全失業率変化率の関係を示す。

負の相関があるが1982-2019年では相関係数が非常に低い。

2003年の金融危機を乗り越え、アフターバブルともいえる2004年以降を一つの基準として、相関を取ったところ、相関係数は0.83となった。

完全失業率の変化率が予測できれば、完全失業率を試算することができる。

図4 GDP成長率前2年平均と完全失業率変化率の関係

図5に完全失業率と自殺率(10万人あたり)の経時変化を示す。

両指標の相関が高そうなことがうかがい知れる。

図5 完全失業率と自殺率(10万人あたり)の経時変化

図6に完全失業率と10万人あたりの自殺率の関係を示す。

1978-2019年の相関は0.778である。この指標においても2004年以降の相関関係(係数0.78)を基に試算をすることとした。

自殺率に人口をかけることで自殺者数が換算できる。

自殺者の増加は2019年から2020年のGDP成長率がプラスマイナス0だった場合と比較したものである。

図6 完全失業率と10万人あたりの自殺率の関係

表1に試算一例、図7にGDP成長率と増加した自殺者数の関係(再掲)を示す。

ここでGDP成長率は2020年の年間値、2020-2021年2年連続同値であると仮定した。

図7 GDP成長率と増加した自殺者数の関係(再掲)