三菱重工は水陸両用装甲車よりバイキングのようなATVの開発がいい

2020年06月11日 06:00

今月の月刊防衛ジャーナルでは防衛装備庁の井上義宏氏が三菱重工が主契約者となって進めている水陸両用装甲車について解説しています。ですがこの手の車両よりも、英海兵隊などが使用しているバイキングのような二連結方式のATV(全地形対応車)を開発した方がいいでしょう。

この記事の中で何故これが必要かという理由にサンゴ礁を超えるためだと述べられています。これは換言すれば、AAV7にそのような能力はないと、といっているわけです。

陸自のAAV(水陸機動車)=陸自サイトより

防衛省がいう島嶼防衛は主に南西諸島を想定しています。

南西諸島には多くのサンゴ礁があり、加えて防潮堤も存在します。AAV7が揚陸できるのはビーチだけなので役に立たちません。使えるのは宮古島や沖縄本当が占領されて、それを奪回するようなシチュエーションです。これは本格的な戦争です。

防衛省と陸幕は、AAV7は当初3年間のトライアルを経て採用か否かを決定するといっていました。ですが、わずか半年に縮めて、指揮通信型、回収型は発注されたけども試験に使われなかったわけです。そして南西諸島における試験すら行われませんでした。それを陸幕は「米国に言われたから試験を端折った」と公式に回答しました。

しかも海兵隊は中古を買えと言ったのに、新品を調達しました。アメリカ兵器産業を儲けさせるために、自衛隊を弱体化されて不要な支出を強要したわけです。

それで米国で頓挫したEFVに似た3,000馬力のディーゼルエンジンを搭載した水陸両用装甲車、MAV(Mitubishi Amphibious Vehicle)を開発しています。これは一応米国との共同研究にするとなっています。

これはあまりに筋の悪いプロジェクトです。陸自で調達する数は精々が60輌程度でしょう。陸自は24両しか調達しなかった96式自走迫撃砲がありますが、その類となるでしょう。開発には下手をすると1千億円は超えるでしょう。しかも米海兵隊に売るならば、防衛省向けのいつもの形だけの試験では済まず、開発試験費用はかなりかかります。量産試作だけでも自衛隊の何倍かは作る必要があります。

調達単価は恐らくは20億円を超えるでしょう。であればAAV7の3倍です。果たしてそれで調達する予算が20年後にあるでしょうか。

本来このような計画はどこの部隊に、どういう運用構想で何両程度配備する、開発予算はどの程度ということを議会に提出して議論をしてから計画が了承されますが、我が国ではそれもないわけです。ずさんとしか言いようがありません。費用対効果という言葉が防衛省の辞書にはないようです。

この手の車輌は水上を走る船舶と陸上を走る装甲車の中間的な存在です。はしけのような航行能力はなく、水上速度は精々AAV7の二倍程度でしょう。地上からの対戦車ミサイルや誘導弾などを回避するのは難しい。装甲車として地上では大きすぎ、デッドスペース、ウエイトが大きく敵の的になります。船として装甲車としても中途ハンバにならざるをえない。そして本来は海岸堡を確保するためのものですから、内陸に進行するならば米海兵隊のように別な装甲車も必要です。その両方を調達する予算が陸自にあるのでしょうか。

開発しても調達数は少なく、開発費を頭割りすれば更にコストの高い装甲車になります。また米国が必ず調達するというコミットメントもない。僅かな数が調達されて終わりになるという陸自の開発必敗の轍を踏む可能性は小さくはないと思います。

米陸軍のATV(Wikipedia)

むしろ英海兵隊のバイキングのような装軌、2連結式のATVを開発したほうが良いでしょう。同じような車輌はシンガポールやロシアでも開発、生産されています。

装甲型と非装甲型を開発すれば軍民両方の市場に売れるでしょう。我が国は南北に長く、海岸線も多い。このため豪雪地帯、ビーチ、沼沢地、サンゴ礁などあらゆる地形が国内に揃っており、また災害も多い。このためこの種の車輌を開発し、更に国内の市場も存在します。それは自衛隊だけではなく、消防や地方自治体、レジャーなどの市場もあるということです。

水陸機動団で使用するにしても、英海兵隊のように海岸近くまで揚陸艇で運べばいいわけです。EFV型よりもサンゴ礁を超える能力も高いし、低速ながら水陸両用です。地上での機動性もEFV型より高い。英軍のアフガン派遣部隊の主力はバイキングを装備した海兵隊です。また自走迫撃砲や、UAV運用型、レーダー車など派生型も作りやすい。

バイキング型のATVであれば軍民両方の国内はもちろん、国外の市場も期待でします。実際、バイキングのメーカーであるBAEシステムズ傘下のヘッグランドは軍民両市場で輸出が多いわけです。他国のものより安価、高性能、高品質などセールスポイントがあれば、世界に輸出が可能です。例えばハイブリッド駆動を採用するも手でしょう。これがうまく行けば三菱重工は世界の軍民両市場で延々と儲けられ、雇用を増やし、納税をしてくれることになります。ワンショットであとに続く可能性がないEFV型より我が国の産業と国防によほど貢献するかと思います。

水機団の運用をそもそも考え直すべきです。オスプレイで運ぶならば水機団よりも空挺団の方が向いています。ヘリボーンやるなら海自のDDHに101でも増やした方がいいかもしれません。島嶼防衛もどのような構想なのかを明らかにしてきちんと納税者に説明すべきです。机上の空論で運用や装備調達やっても税金をドブに捨てるだけです。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

European Security & Defence に以下の記事を寄稿しました。
Hitachi wins Japanese bulldozer contract

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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清谷 信一
軍事ジャーナリスト、作家

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