高校における最大の感染症対策は皆勤賞の廃止

2020年06月17日 06:00

私がこれまで4回にわたって批判してきた今年度または来年度からの9月入学制の導入については、多くの反対の声が政府に届いたらしく、回避されることが決定的となった。(参照:5月7日から速やかに学校を再開せよ学校再開に舵を切った文部科学省を支持する「9月入学制」の語られない問題点9月入学制度の「最大の被害者」を忘れるな

新型コロナウイルスの感染が再び拡大した場合の選択肢として、事務レベルでの検討は続けるという報道もあるので、まだ安心はできないが、とりあえず一段落したと考え、今回は別な問題について意見を述べてみたい。

5月25日に行われた緊急事態宣言の解除を受け、すでに全国の小中学校・高校で教育活動が再開されている。その実態は地域によってまちまちで、時間帯や曜日をずらしての分散登校の段階の自治体もあるが、私の地元の福島県のように普段通りの時間割で授業が実施されている地域も多い。

ただし、教育現場に本来の日常が戻ってくるのはまだしばらく先のようで、部活動の大会が中止になっただけでなく、グループ学習や格技、調理実習などが当面は行えない。今年度は水泳の授業を実施しない自治体も多いと聞いた。相当な用心深さだが、私の目から見ると、最も重要な感染防止対策があまり話題になっていない気がする。それは皆勤賞の廃止である。

写真AC:編集部

皆勤賞については、ここ数年、特に幼稚園や小学校で廃止される例が増加し、その理由は「休むことが悪い」という意識自体が疑問視とされたためだという。私もその考えに賛成だが、ここでは特に高校に関して、別な観点からこの制度の問題点を明らかにしたい。

もともと私は、現役教員の時代から皆勤賞に疑問を抱いていた。それはもちろん、3年間たった1時間の欠課もなしに授業を受けたのだから、偉いことは偉い。卒業時にその事実を表彰するのもいいだろう。ただ、問題は欠席・遅刻・早退の有無、あるいはそれらの数が就職や進学の際の校内選考で重要な資料とされることだ。私は定年退職・再雇用後、教育委員会から理不尽に雇い止めされるまで38年と 4カ月高校教員として勤務し、その間に延べ8校を経験したが、例外は皆無だった。

特に地方の高校の場合、数少ない受験校を除いて、生徒たちの進路に対する考え方は多様性に乏しく、就職ならば給与の高い地元の大企業、進学ならば偏差値が高く、指定校推薦で受験可能な大学に希望が集中する。ご存じでない方のために説明すると、一般推薦入試とは違い、指定校推薦入試の場合、不合格はまれであるが、人数に制限があるので、校内の競争は熾烈となる。

そのため、いわゆる評定平均値だけでは並んでしまうことがよくあり、取得済みの資格や部活動の実績を判断材料にするが、それでも差が出ないと、欠席・遅刻・早退の数で推薦者が決まってしまうのだ。

そのことは生徒や保護者もよく知っているから、特に成績上位者の場合、推薦会議の資料に『皆勤』(その時点までの)ばかりがずらりと並ぶ。つまり、彼らにとっては一生がかかっているから、体調が悪かろうが、熱があろうが、無理を押して登校してくるのだ。

各都道府県の教育委員会でも実態を知らないわけではないので、ウイルスの感染拡大に伴い、発熱などがあれば欠席ではなく、出席停止扱いとするよう通達を出したと聞くが、いつまでも特別扱いにはできないだろうし、仮に今後もずっと続けた場合、実際には十日以上学校を休んだ生徒が皆勤賞を受けるなどという事態になり、生徒の間で不公平感が増す。それはそれで大きな問題だ。

新型コロナウイルスとの共存が不可避となった今、何とか登校できるような体調であったしても、感染防止の観点から慎重な判断が求められるし、また、万一不幸にして校内でクラスターが発生した場合、そもそもの感染源となった生徒がいじめの対象にされる恐れが多分にある。そういう意味でも、決して無理はさせられないのだ。

文部科学省が 4月に発表した「新型コロナウイルス感染症の予防」という資料を読んでみると、細々した注意がこれでもかというほど並んでいるが、この点については触れられていないので、生徒の立場に立ってみれば、欠席した場合の扱いを明示してもらわないうちは怖くて休めない。ウイルスの第二派が来る前に、文科省は一日も早く、少なくとも今年度に限っては皆勤賞の授与を見送り、また欠席・遅刻・早退の数を就職・進学関係の選考の際の資料としないよう各都道府県の教育委員会に指示すべきだ。

さらにもう一歩踏み込んで言えば、教員についても理屈は同じである。福島県の教育環境が劣悪だったせいかもしれないが、とにかく「授業に穴を開けるのは悪」という意識が強く、朝、発熱があり、休暇を取るために電話しようと思っても、教頭に「授業はどうするんですか」ときかれるのが嫌で、ふらふらになりながら出勤したことが何度もある。

もちろん年休を取らせないという意味ではなく、誰かに授業の代理を頼むなり、自習課題の作成を依頼するなりしろと言っているのだが、そんな面倒なことをするくらいなら、授業だけどうにか済ませて早退した方がましだと、私の場合、思ってしまうのだ。

政府が提唱した「新しい生活様式」ではないけれど、コロナ後の学校現場には以前とは違う余裕が、教える側にも教えられる側にも絶対に必要である。

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