装甲車輌調達の下手な国とうまい国

2020年06月21日 06:00

英軍の装甲車両AJAX(Defence Images/Flickr)

5月27日付のJane’s Defece Weeklyで、 Tricky Procurments という装甲車輌調達の問題を指摘する記事が載っております。ざっくりいうと英米の装甲車輌調達プログラムは開発&調達コストの高騰、期間の遅れがひどい。対してフランス、イスラエル、オーストラリアは概ね成功しているという分析です。

米国のブラッドレーの調達、及びその近代化、後継、AAV7後継、英国のウォーリアの近代化やアジャックスの導入などです。
英米が駄目、プログラムマネジメントの欠如、調達&開発戦略における明確なビジョンが欠けていること、更には政治やメーカーのロビー活動で政治家が、国内に仕事を落とすこと、特に自分の票田に仕事を回すように画策したりすることも挙げています。これは特に米国で顕著です。そのためにサプライチェーンが不効率になったり、実力の無いベンダーを使ったりすることも問題です。

更にプライムの能力が欠如していることを記事は指摘しています。英国の例ではウォーリアの近代化は単にC4IRの追加と砲塔の交換です。エイジャックスはASCORDという既存車輌ベースの開発なのに費用が高騰、時間も掛かっている。これらは例えば両方とも既存のC4IRシステムを導入し、ウォーリアはCMIインターナショナルやラインメタルあたりの砲塔でもインストールし、エイジャックスはASCORDそのまま採用、あるいは最低限の近代化すれば良かったと思います。採用後にスパイラル的に近代化すればよかった。あるいはBAEの子会社が開発したCV90の最新型で良かったでしょう。

英米に共通しているのは強欲資本主義にどっぷり使っていることでしょう。英国は強欲資本主義の本場の米国と親和性が大変高いのが実態です。そしてBAEシステムなども事実上米国企業みたいなものです。

いつも申しておりますが、米国強欲資本主義では、株主の短期利益を最大に尊重します。それはストックオプションで利益を得られる経営陣もメリットがあります。このためにバランスシートをキレイにするために、工場、製造設備をできるだけ減らし、人件費や教育費用もケチります。当然中長期に渡る研究開発投資もしません。

技術はベンチャー企業を買収すればいい、利益がでればそれで退職金を払って従業員を解雇したりします。経営陣は儲かりますが、従業員の賃金は極力低減されますから士気も落ちます。なにより、教育費もケチるのでプロとして能力も維持できなくなります。さらに利益がでても配当と自社株買いで株価釣上げに使います。

こういう感じですから従業員も会社に対する忠誠心はなくなります。詐欺当然の手段でも短期的に成績を上げて、それを手土産により高給で雇ってくれる会社に転職します。実際にそういう例をぼくはビジネスの現場で多く見てきました。

こういう環境では中長期の開発であるとか、地道なコストダウンとかに力が入りませんし、能力の高い社員が育たないのでベンダーのコミュニケーションもうまく行かない。何かあれば互いにお前が悪いと罵り合います。これでは高いシステム統合能力なんぞ身につきはしません。ボーイングの737のトラブルもこういうことが背景にあると思います。

更に申せば、全体的な調達計画がきっちり決められておらずバラバラに動いています。

変革の兆しもあります。2019年に米国主要企業の参加する経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルはこれまでの株主第一主義を見直して、顧客、従業員などのステークホルダーの利益を優先すると宣言をだしています。

対してフランスはスコーピオン計画という大きなフレームを作っています。
その中で、既存車両の任務を統合して車種を減らしたり、プラットフォームを共通化したりコストを下げています。

https://japan-indepth.jp/?p=43786
https://japan-indepth.jp/?p=43793

さらに6つあったバトルマネジメントシステムもスコーピオンシステムに統合しています。しかも新たな統合無線機は既存の無線機の12倍も周波数帯が広いので周波数帯を容易に変更できて妨害にも強い。

イスラエルも同様にバトルマネジメントシステムやC4IRシステムを共通化しています。なによりイスラエルは常に臨戦態勢にあって、国家の存亡をかけて軍備を整えています。それによって官僚主義や不効率が排除されています。これはかつての南ア国防軍も同じでした。

オーストラリアもランド121、ランド400という包括的な装甲車輌調達計画をまず作って、そこからブレイクダウンして各装甲車輌を調達しています。またあれこれ小細工せずに他国で実績のある装備を調達することが多いのも特徴です。もっとも、英国の強い影響を受けたままの海軍の調達は潜水艦含めてお粗末なようです。

これらの国々に共通しているのは明確な戦略があり、強いリーダーシップに基づく確固とした要求があり、実現可能でアフォーダブルなレベルで、計画管理を厳格にしていると記事は分析しています。

さて翻って我が国はどうでしょうか。80年代以降調達された装甲車輌全体の更新(あるいは近代化)計画は存在しません。コマツのものを採用した8輪装甲車は開発費もろくに出さなく、キチンとコミットメットもしなかったので無残に失敗。その仕切り直しで採用の次期汎用8輪装甲車は、ファミリー化はされるものの、同じような8輪装甲車を調達しようとしています。軽装甲機動車後継のビジョンも見えていません。89式ICVなどの後継も不透明です。

装甲車輌のポートフォリオ更新にどれだけの費用がかけられて、どの程度の期間で行うかもアナウンスがありません。これは防衛省の無能を隠すためのものであり、納税者に対して充分な情報公開をしているとは言えません。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。

European Security & Defence に以下の記事を寄稿しました。
Hitachi wins Japanese bulldozer contract

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2020年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。

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清谷 信一
軍事ジャーナリスト、作家

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