三峡ダム崩壊を期待している人たちへ

2020年07月23日 16:00

中国の水害について「三峡ダムが崩壊するのでないか」とか「数億人が死ぬのでないか」とか、なにかそれを期待するようなトーンの報道や論評、SNSへの投稿が目立ち、いくら中国政府の横着な振る舞いが目立つとは云え、それを揶揄する日本人や欧米人も文明人とは評価しがたく残念だ。

三峡ダム(5月撮影、湖北省人民政府サイトより)

中国はもともと「水を治める者、天下を治める」といわれるように水害に弱い国土である。また、華北では慢性的な水不足で、砂漠化も進んでいるし、北京を首都として維持できるか心配する人もいるくらいだ。

しかし、その一方、土木技術は相当に水準が高い。なにしろ、紀元前3世紀に万里の長城を建設し、7世紀には大運河を建設し、長安や北京をはじめ世界屈指の威容を誇る大都市を整備してきたし、現在も世界各国のインフラ整備を助けている。

もちろん、水害は深刻で1世紀に一度くらいのものだろうし、被害も桁外れになるだろう。しかし、中国政府もしっかりした、また、大胆な対策もとっている。

先日、安徽省の滁河という川の「ダムが爆破された」という報道がAP通信から流された。これはダムの周辺の堤防を爆破したということらしく、ダム本体を爆破したのでない。

しかし、堤防の爆破でも穏やかでないし、ブルドーザーで崩していることは、中国のテレビでも放送していた。

これを見ていて、私は安心した。中国政府が大胆に最善を尽くしているということだからだ、現在の状況は、四川省など長江上流に大量の雨が降って、ダムでも抑えきれず大洪水になっていることだ。重慶では1940年以来の洪水だそうだ。

そして、三峡ダムも能力を超えて緊急放水している。その結果、武漢、九江、南京なども大洪水で、太湖も21mという水位だそうだ。さらに淮河でも深刻で、政府は堤防を切って農業地帯を水没させて都市を守っているということだ。

放水する三峡ダム(19日、湖北省人民政府サイトより)

これは、当然のことで、流域コントロールが円滑に進んでいるというだけのことだ。パリでは冬になるとパリの周りの農村部は全部水没するように最初から堤防が作ってあるからパリは1910年以降水没した事は無い。

ところが、日本では都市を守るのを優先することが、最近はできず、農村部で土嚢を積んだので都市部で河川が決壊して都市が水没したなどということも起きている。

大事な事は、洪水になったら、住民を逃がして、経済的に被害が少なくなるように水没地域を選ぶことであり、それ以前に水没しやすいところに人を住ませたり、重要な経済活動をさせないことだ。ところが、権利意識だけ高くなった日本ではそれができず脆弱になったり、コスト無視で堤防を高くしたりしている。

三峡ダムについては、そもそも防災のために作ったのでなく、発電、華北の水不足解消、重慶まで遡上できる船を3000トンから10000トンに上げるために上げるなど多目的があり、中国の経済発展に多大な貢献をした。

利権の対象に過度になっているか、また、そのために品質が落ちたとかいうのはとくに根拠があるわけでない。10年以上前に台湾の国民党副主席だった故・江丙坤さん(東大で農業経済学博士を取得)と話していたときに、「親中派に転向したのか」と聞いたら「本土へ行って公共事業の実の高さに感心した。あれだけの質で公共事業ができるのは統治機構が健全である証拠だと思った」といっていた。

汚職で予算が消費されて質が低下していることが発展途上国では多いがそういうことでないということだった。それが、胡錦濤の時代当たり汚職が蔓延して怪しくなっており、だからこそ習近平が引き締めにかかって、その不満のはけ口を対外強硬路線に求めているのだが、中国のインフラの質がそんな悪いとは思えない。

新幹線でいちど崩落事故があったが、ヨーロッパなどでも事故は起きており、中国の新幹線の工事の質がそんな悪いわけでない。

日本の公共事業の質が高いというのも阪神淡路大震災で高速道路や新幹線の橋が落ちて嘘だと世界が知っているところだ。人手不足、資材不足のときに作られて危ないインフラも多い。

ダムについていえば、日本でも安全ではない。三峡ダムを心配するなら宇治市の天ヶ瀬ダムの心配もすべきだろう。あれほど大都市に近いところのダムが老朽化していっているのは心配だ。

もちろん、三峡ダムが安全というわけではない。あれだけのダムとなると、思わぬ落とし穴がないかは当然に心配だし、中国政府もそれはしている。

中国経済についてネガティブな話に日本は飛びついて、大きな流れを見誤ってきた。私は中国経済の将来に相対的には楽観論を半世紀近く言い続けてきているが、悲観論の皆さんがこれだけ長期にわたって誤った見通しを言い続けて平気で、正しい予測をしてきた我々に敬意を払わないのは不思議なことだ。

ただし、中国のインフラや経済について高く評価することは、それを好意的にみることとには、つながらない。中国経済楽観論は、巨大化する中国へ正しい警戒をすることでもある。

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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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