その装置は何年もつ?歯科材料の寿命は?「クラウン」を例に

2020年08月01日 06:00

「その治療法で、どのくらい長持ちしますか」

医師・歯科医師がしっかり説明を行い、患者の同意を得たうえで治療する。インフォームドコンセントの考え方は一般的になってきました。だからこそ、このように率直に聞かれることも増えてきています。

歯の詰め物として代表的な「クラウン」(NobelSmile

いまどきセラミックスの歯が一生ものだなどというのは、違和感しかもたれないでしょう。一方で歯科治療の寿命はその人の体質や歯の状態に大きく左右され、個人差が大きく、ときに予測不可能です。歯医者さんとしては、答えにくい質問であると言えます。

とはいえ利用者視点では治療の持ちというのは大いに気になるものと思います。そこで今回は歯科治療装置の中でも最も代表的な、歯をすっぽり覆う「クラウン」について、金属とセラミックスの比較を中心にご紹介したいと思います。

1. 生存率研究のゴールドスタンダードとは

ご存知の通りクラウンの材料は、金歯・銀歯からオールセラミックスまで様々なものがあります。

この中で最も耐久性と機能面で優れているのは、金属系材料です。展延性や靭性という、衝撃に対して伸びて受け止める性質が、強い力がかかる歯の修復に適しています。

金属製クラウンの断面図(NobelSmile

クラウンの長期生存率研究のゴールドスタンダードには金属系材料が据えられており、セラミックス系材料やプラスチック系材料がどこまでその成績に追いつけるか、という比較がされてきました。

(参考)Metal‐free materials for fixed prosthodontic restorations – Cochrane Systematic Review(2017)

金歯、あるいは表面に陶材を焼き付けた金属フレーム(メタルボンドという)の生存率は、①5年後で92.3%、②11年後で94.4%(焼付セラミック部分の破損を含むと88.8%)、③10年後で92.8%、15年後で86.0%となっており、だいたい10年後で9割以上が維持できていると考えると良いでしょう。

① Passia – J Oral Rehabil(2013) 
② Bernd – J Prosthet Dent(2013) 
③ Kelly – Br Dent J(2004) 

2. 情報が少なすぎる保険治療

しかしここで見た海外の文献で使用されているのは、日本では自費治療となる金合金です。保険治療で主に使用される金銀パラジウム合金は日本独自の組成の銀合金で、国内の文献でしか情報を得られません。金合金とだいたい同じと見なして、データ上も混同されることが多いですが、厳密には違う材料なので分けて考える必要があるかもしれません。

かろうじて参考にできる文献での生存率は、④10年後で84.7%(部分修復の結果を含む)、⑤5年後で55.8%(一般開業医の多施設研究で、サンプル選択・再治療判断基準・チェアタイム等の治療レベルの違いを著者が認める)、と大幅な差があります。どちらも他の治療法と比較可能な研究デザインになっているとは言い難いと感じます。

個人的な所感としては金合金と大きな差があるとは思わないので、10年後で84.7%が実感に近いです。しかし安価な保険治療ゆえに無理な適応も多く、その分で統計上の成功率が下がる現実もあるのだろうと類推します。結論としてはデータが不十分でわからない、とすべきかもしれません。

④ 久保 – 日本歯科保存学雑誌(2001年) https://ci.nii.ac.jp/naid/10007924676
⑤ 青山 – 口腔衛生会誌(2008年)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh/58/1/58_KJ00004846513/_pdf

このように保険材料に関する文献が限られる現状は、臨床歯科医の患者説明を困難にし、一側面を強調したフェイクニュースやデマに対する反論を難しくしています。60年の長きにわたり保険収載し、代替が難しい材料であれば、クラウン治療の専門医はデータ収集をしておくべきではなかったのでしょうか。

一方、非金属系材料の研究は保険収載をめざして活発に行われてきました。2014年に登場した新しい樹脂製クラウンについては、以前の記事をご参照ください。

(参考拙稿)シュリンクフレーションでの新しい価値(例・歯科の新材料) ― アゴラ(2020年2月5日)

3. セラミック材料は金属材料の後を追い発展中

自費治療の代表格であるセラミックス治療は、歯医者さんからもよく勧められると思います。たしかに30年経過の装置であっても変色はほとんどなく、美しさを維持していると感じます。以前は部分的な欠けや、強い衝撃による割れなどが課題でしたが、大幅に改善されてきています。

セラミックス製クラウン(NobelSmile

近年主流の素材に着目した文献によると生存率は⑥10年後で83.5%(二ケイ酸リチウム)、⑦10年間で91.3%(ジルコニア/結合セラミックス部分の破損を除く)となっています。

つまりセラミックス治療は10年後で8割以上が維持できていると言えそうです。

⑥ Rauch – Clin Oral Investig(2018) 
⑦ Sailer – J Dent(2018) 

まとめ

ひとつの目安として10年後の生存率見てきましたが、実際にどのくらい持つかは作成時の歯の状態と、作成後の口腔衛生管理の状態により、大幅なバラツキがあるというのが実際です。

どの材料を選ぶかよりも、歯の状態を十分に把握し、歯医者さんのアドバイスに基づいた無理のない選択を行い、メンテナンスを継続するというのが、装置の持ちに大きく関わる部分になると考えております。

もちろん歯医者さんであっても予後を完全に予測することはできません。そのため保険治療では2年間は制作したクラウンに関して、歯科医院で一定の責任をもつルールが設けられています。

自費治療にこのような制度はありませんが、何かあったとき歯科医院でどのような対応をするのか、質問してみると良いかもしれません。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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