通貨の信認低下で2000ドルの金バブルが発生

2020年08月06日 18:00

金価格があっという間に、1㌉2000㌦を超え、史上最高値を更新しました。市場では「米大統領選を控え、経済の不透明感が続くので、2300㌦まで高騰する」との声も聞きます。年初来30%以上、過去1か月で15%の上昇ですから、「金バブル」なのでしょう。

写真AC:編集部

主要国の超金融緩和の流れで金が高騰していたところに、コロナ危機が加わり、不況が長期化する気配から、投資対象の選別が進み、「金バブル」の勢いが加速している形です。

メディアの報道を見ますと、「コロナ危機が映す金最高値」(日経4/14)から、「ドル代替で2000㌦超え」(8/1)、「ドルが10年ぶりの下落率/金最高値」(8/2)と、見出しに変化が感じられます。金高騰の背景がコロナ危機から、ドルの信認低下の問題に広がっている感じです。

金はどこの国でも、同じような価格で通貨と交換できる「無国籍通貨」ともいわれます。かつては法定通貨、準通貨でもありました。中央銀行が無制限に通貨供給を増やすものですから、ドルや円などの法定通貨の価値が下がり、金が投資対象として選択される。

そうした意味では、「金バブル」は通貨システムへの不信感に原因がある。 もっとも金は株式や債券と違い、倒産などで無価値になる金融資産と違い、宝飾品、産業用などの実需が6割を占める実物資産です。実物の裏付けがあり、「バブル」だけで2000㌦を超えているということではありません。

1㌉は28㌘ですから、日本国内の金地金は1㌘7600円(消費税込み)です。私が趣味で20年ほど前に買った1㌉コイン(カナダのメープルリーフ金貨)は4万円ほどでした。現在22万円ですから、数倍の値上がりです。100枚を400万円で買っておけば、今2200万円の小金持ちになっていはずでした。

「おカネが増えますように」と、おまじない代わりに、常時、小銭入れに収めていた時期がありました。そんな時、倒産状態の名門出版社に出向を命じられました。金貨のおまじないの効用があったのか、何とか黒字に転換できました。それ以来、金相場に関心持つようになりました。

各国の政府・通貨当局は大量の金を保有しています。1位米国8100トン、2位独3400トン、3位伊2500トン、4位仏2400トン、5位中1900トン(14年現在)などが上位に並んでいます。中国は正確な統計を開示しておらず、実際は4000トン、企業・個人保有を含めると1・5万トンとの説もあります。

日本は金小国です。当局の保有量は760トンで、欧米に比べると、極めて少ない。外貨準備に占める金の保有額の比率も小さい。上位は米73%、独68%、伊67%、仏66%です。日本はなんと2%です。日本の外貨準備は1・3兆円で、中国に次ぐ2位なのに、ほとんどを米国債で運用しているからです。主要国は資産保有の分散を進め、金保有を増やしてきたのに、日本はそうしてきませんでした。

金は紀元前3000年前から、通貨として使われてきたそうです。日本も戦前、金本位制を採用していた時期がありました。第2世界大戦後、世界経済の中心に躍り出た米国に、世界全体の金の3分の2が集中し、それをバックにドルが世界の基軸通貨として君臨し、「米国の世紀」を作りました。

米国の経済力のピークが過ぎ、仏英からドルを金に交換するよう要求されるなどして、金の保有量が減り、1971年8月15日にニクソン・ショックが起きました。米ドルと金の交換(兌換)が停止され、変動相場制に移っていったのです。当時は1㌉35㌦がドル・金交換の固定比率でした。

それから約50年です。その金は1㌉35㌦が今や2050㌦で、約55倍に値上がりしました。逆にみますと、ドルは金に対し55分の1の価値に目減りしました。ドルの発行に制約がなくなり、通貨としてどんどん発行される一方、金の生産量は年間3000トン程度で供給量が限られており、値上がりしたのです。

それにしても値上がりは急カーブです。「コロナ危機で世界経済の不確実性が増した」「コロナ対策のために今後、2、3年は超金融緩和が続き、ゼロ金利が長期化する」「金利がつかない分だけ不利とされてきた金なのに、金融資産もゼロ金利になり、差がなくなった」「中国への覇権交代が起きると、ドルの信認がさらに低下する」などが背景になっています。

金の生産量(2017年)は中国が430トンで1位、豪州が300トンで2位、ロシアは270トンで3位、米国は4位の240トンです。中国はもう10年以上、トップを保っています。金は増産にも限界があり、今後、基軸通貨に復帰するということはあり得ません。

それにしても、通貨の番人である中央銀行の存在感がすっかり希薄になり、かつての基軸通貨の金に投機資金が流れ込む。規律がなくなってしまった通貨システムに対し、警鐘を鳴らしているのが「金バブル」の実体なのでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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