没落日本がコロナ後に目指す方向は

中村 伊知哉

コロナ第n波。

気がつけば都知事選は終わっていて、総選挙は?なんて声も聞く。

ネット投票を取り入れようという空気がないのはなぜなのでしょう。

それもそのはず。日本はIT化が全く進んでいません。

このところの記事に、気が滅入っております。
国の手続きでオンラインで完結できる割合は7.5%しかないという。

「霞が関の非常識 遠いデジタル政府(識者に聞く)オンライン恩恵可視化を」
休校中/休校予定の自治体のうち双方向型のオンライン指導をするのは5%だという。

「「チャンスなのに…」公立のオンライン授業、普及への壁」
2000年に国が打ち出したIT政策「e-Japan戦略」は、電子政府の早期実現と学校教育の情報化を柱に据えました。

今年の経済財政諮問会議や骨太の方針も、行政と教育のIT化が柱とされています。

20年たっても進んでいないのです。
コロナ対策の現金給付でも、システムは自治体任せで、オンライン申請しても結局、紙で印刷して手入力する役所が多く、オンライン申請を停止した役所もあるといいます。

目を覆います。
小林史明衆院議員が1700自治体バラバラ問題に切り込んでいます。

教育情報化も同様の問題に悩んできました。昭和末期の多極分散法や四全総から2000年の地方分権法を経て、平成は分散・分権に努力が払われたが、その結果、デジタル対応が遅れ、令和の入口でコロナに会い、足踏みを余儀なくされているのです。
「自治体のシステム標準化が必要 自民・小林青年局長―デジタル変革」
教育についてはぼくらの「デジタル教科書+PC一人1台」運動から10年、コロナ対策もあってようやく今年、実現しそうです。

でも南米ウルグアイが一人1台を達成したのが2009年。日本は運動効率が悪すぎます。
これは企業だって同じです。

在宅勤務が可能な人の割合は、日本は主要国で最低水準だという。

専門職やジョブ型雇用の比率が低く、サービス・販売従事者の比率が高いこともあり在宅勤務が進まない。

働き方の硬直性が生産性の低さに結びついているようです。
「在宅勤務定着、ニッポンの壁 主要国で最低水準」
経理の9割が請求書を電子化すべきだと考えているともいう。非効率的な業務も見直されない。

「請求書を電子化すべき」9割、経理のIT導入は6割が叶わない」
ハンコは残る。満員電車は復活してきた。株主総会はオンラインじゃダメ。

コロナが見える化したものは、日本はSociety5.0、第4次産業革命どころか、Society4.0、第3次産業革命にも至っていなかったということです。まずそれを認識しておきたい。
さらにそれは日本全体の没落に直結している気がします。

1989年に世界1位だったIMD世界競争力ランキングが34位に落ちました。昨年から4位下落です。

主要国の中で一方的に下がっているのは日本だけで、30年で34ダウン。年に一つずつ抜かれていっています。
競争力という点ではとうに先進国ではなく、復活の気配もありません。

「IMD世界競争力ランキング2020、首位シンガポール。日本は34位で凋落止まらず」
経済力が衰えても、安全で平穏な日本ですから、海外から見れば憧れの国、のはずでした。

しかし、HSBC「各国の駐在員が住みたい国ランキング」では、日本がほぼ最下位という評価。

これは衝撃的です。

「日本が「駐在員の住みたくない国」に堕ちた屈辱」
賃金は最下位、ワークライフバランスも最下位、子どもの教育環境も最下位という評価だというのです。

経済力だけではなく、生活や教育という社会環境も含めダメ出しをされている。
しかも、ベトナム、フィリピン、インドネシアといったアジアの国々が日本より上位を占めています。

少子高齢化で労働人口が不足する日本は外国人労働者をどれくらい受け入れるのか、そのための規制やビザ要件をどこまで緩和するのか、という議論が進められています。
だけどそもそも、そんな上から目線は大いなる勘違いなのかもしれません。

かつて貧しかったアジアの国々よりも日本は没落し、低賃金労働者に来ていただけるなんてことはそろそろ幻想となるかもしれません。

むしろ日本は低賃金労働者としてアジアのどの国に受け入れてもらえるかを考える時期なのかもしれません。
列強に伍す。坂の上の雲。軍事で夢破れ、一度は経済で伍した。競争力で頂点にも立った。でも平成の30年、デジタルへのシフト不全で途上国に落ちた。いまココ。さて、どうしますか。

コロナを経て、再び成長戦略を、というリアリティーは失せました。どうにも空疎です。
ポップで快適、という文化面を磨くほうがまだ現実感があります。

そもそもクールジャパンの始まりとなったダグラス・マクグレイの2002年の論文「Japan’s Gross National Cool」は、日本が軍事→経済国家から文化国家へ変貌したことを示したものですが、コロナはその後押しをしているのかもしれません。
中国人の「行きたい国」で日本が1位、という報道もあります。

コロナ後の留学先として日本を選ぶ外国人も急増している模様です。

その受け皿となる文化を整えることですかね。

「中国の観光業者が予想「これから中国人がやってくる日本の観光地」」
日本が強みを発揮するオタク文化、マンガもアニメもTVゲームも、基本はデジタル以前のアナログものです。デジタル、デジタルと騒ぐより、振り返って、そちらに精を出すほうがよいのかもしれません。
コロナ下でもロックダウンなく死者が少ない、安全で快適な風土をプロモーションして、リッチなシニアを海外から呼び寄せる。高齢化に悩むより、振り返って、そちらに注力するほうがよいのかもしれません。
コロナはぼくたち等身大の姿を映す鏡です。身の丈を知りました。

その鏡が去った後、ぼくたちが目指す姿はどうあるといいでしょうね。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2020年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。