保守業界に居ただけ?評論家・古谷経衝氏への違和感

高山 貴男

保守業界の外でも書ける内容

評論家・古谷経衝氏によるyahoo記事「日本の極右と欧米の極右の根本的差異~日本では”欧米型極右”は誕生していない~」には下記のようなことが書いてある。

かろうじて朝鮮総連等の固定資産税免除(減免)などの事例が自治体によりけり存在したが、北朝鮮による日本人拉致問題に対する世論の沸騰を受け、こういた措置もゼロ年代から次々と廃止された。「在日特権」は無かった。

この記述を読んで「そうだ。在日特権は無かった」と思う人間がどれだけいるだろうか。

古谷氏「かろうじて」という言葉を用いて問題を矮小化しているが、理由はなんであれ拉致問題が発覚する前までは朝鮮総連に対して固定資産税の減免は実施されていたのである。

この減免も別に自治体の一担当者のミスとかではない。自治体の意思として固定資産税の減免が実施されていたのである。そうである以上「やはり、在日特権はあったのではないか!」と思う人間の方が多いのではないだろうか。

「在日特権」という言葉が不適切というならば別の言葉を用いればよく、当たり前だが、この減免は人種・国籍を根拠にしたものではない。

あくまで朝鮮総連という組織を根拠に実施されたものである。在日コリアンへの不当な批判を防ぐためにも朝鮮総連への固定資産税の減免の話をするならばここまで触れるべきである。億単位の閲覧がある言われるyahooで紹介するならば尚更である。

また古谷氏はかつて保守業界にいたのだから、この固定資産税の減免が保守業界内部でどのように受容されていたか話してもよいのではないか。

古谷氏の理解では保守業界は在日コリアンへの差別の震源地なのだから、保守派の思考を読み解くためにも受容の実態を検証することは必要なはずだが、氏はなんら触れていない。

保守業界にかつて在籍していた人間が「業界事情」を話さないのである。

本人公式サイトより

古谷氏は過去に保守業界に在籍していたことをセールスポイントにしているが、筆者は古谷氏の記事をみていつも思うこと、大変失礼な言い方になってしまうが氏の記事は別に保守業界に在籍した過去がなくても書けるのではないかということである。

氏の記事は「ネット右翼」「極右」「保守」といった「主語が大きい」ものが多い。

しかし保守業界に在籍した人間が用いる主語は保守派の具体的個人、団体ではないだろうか。

慎重を超えた態度

良し悪しは別として古谷氏に期待するのはやはり保守業界内部の暴露だろう。

日本は公の場で本音を語らない文化があり暴露は場合によっては業界全体に大打撃を与えることができる。

もちろん「古巣の暴露」はリスクを伴うものであり、暴露に伴う報復を警戒するのは当然と言えよう。個人情報が把握されていたら大変なことである。家族がいる身なら尚更だろう。

古巣に警戒していた?と思われる古谷氏だが「保守業界からの離脱」「保守派との決別」を宣言した頃に保守論客の石平氏との間でトラブルがあった。内容は石平氏の名誉にかかわることなので詳細は省くが、要は古谷氏が石平氏に対し差別的なtweetをしたのである。結局、古谷氏が石平氏に直接面会、謝罪して事なきを得た

これは古谷氏に関心があるものならば誰もが知っている「珍事」であるし、そして何より古谷氏の振る舞いはとても「古巣の報復」を警戒している人間のものではない。

筆者はこの話を聞いて古谷氏は保守業界の人間から別の意味で個人情報を把握されていないのではないかと思った。

石平氏との騒動後に古谷氏は保守業界内部の暴露本を出版したが、あくまで「小説」という形式であり暴露としてあまりにも弱い。創作は所詮、創作である。

石平氏との騒動がなければ感想は違ったかもしれないが「慎重を超えた態度」という印象しかなく、だから具体性のない主語を多用するのかという感想しかない。

石平氏との騒動も小説も過去の話ではないかという声もあるだろうがつい最近(7月30日)の別のyahoo記事「韓国「安倍首相土下座像」への日本政府苦言の違和感にはこんな記述がある。

日本のある民間宿泊施設では、経営者の強い右派的思考により、「日中戦争はコミンテルンの陰謀であり、日本軍は被害者に過ぎず、中国大陸を侵略していない」という歴史修正主義や、「日韓併合は韓国側が望んだもので、日本の韓国統治は植民地支配ではない」というこれもまた歴史修正的な冊子を、客室に常備している例があり、この事例は国際的に大きく報道された。

彼は「アパホテルは南京虐殺を否定する書籍を置いている」の一文も書けないのである。

アパホテルは古谷氏の言う「歴史修正的な冊子」について堂々と見解を出している

だから「日本のある民間宿泊施設」なんて言葉を使う必要はない。古谷氏は何に忖度しているのだろうか。

もしかしたらyahoo編集部から何か指摘があり文章を修正したのかもしれないが、これは掲載しないほうがよかった。

まさに「慎重を超えた」態度であり「古谷氏は保守業界に居ただけではないか」と思ってしまうのは少し性格が悪すぎるかだろうか。

「味方」を増やす思考を

筆者がどうして古谷氏の記事について論じたのかというと内容があまりにも雑で、特に朝鮮総連への「固定資産税の減免」の紹介の仕方は在日コリアンへの偏見を生む危険性の方が高く、それが億単位の閲覧があるといわれるyahooに掲載されているからである。

アパホテルの記述も保守業界ではなくその批判者への不信を高めるだけだろう。

「保守業界を必要としているのは保守ではない」と言われるだけである。

今や保守系youtuberの存在も珍しくなくリベラル系ジャーナリストの石戸諭氏による保守業界の分析本「ルポ百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地」が出版され好評を得ている。だから元ネトウヨ、元保守の肩書は大した意味を持たない。

古谷氏は二十冊を超える著作を出している。言論人としてのエネルギーは十分にある。

もう「敵」を攻撃するのは止めて「味方」を増やす思考に切り替えるべきだ。

古谷氏ならそれができるはずである。筆者として氏の今後の転換と活躍を期待したい。