安倍政権と日本の政治② :安倍政権の評価についての私見

2020年09月02日 06:00

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守りが目立った政権後半

そして、「守りの後半」であるが、具体例としては、特に1)消費税率の引き上げ、2)選挙での勝利、3)米国トランプ政権誕生への対応、を挙げたい。

2019年10月、消費税率引き上げについて会見する安倍首相(官邸サイト:編集部)

第2期安倍政権は、途中、消費税率を2度引き上げている。ほぼ支持率を下げる要因でしかない消費税率引き上げを、一政権で2回やった歴史は日本にはない。そもそも、2度の消費税率引き上げは、第二次安倍政権発足前のいわゆる三党合意で決まっていた話であり、面倒な重荷を背負わされた状態でスタートを切らざるを得なかった。

つまり、危険から政権を守らねばならなかった宿命にある。そんな中、特に、当初2015年10月に予定されていた2度目の引き上げ(8%→10%)を、2回も延期しつつ、2019年に何とか実現したことは、この政権の「守り」のうまさの証左である。

更に第2期政権が空前の長期政権になった大きな要因は、6度の国政選挙で全て勝利したことだ。うち半分の3回は、解散のない参院選であり、選挙時期のコントロールができない。大敗して、国会がねじれる(衆院で多数でも、参院で多数が取れず法案などが滞る状態)ことが、日本政治の構造的リスクで、過去、自民党も民主党もこの状態に苦しんできたわけだが、第2期安倍政権は参院をうまく守り切った。

残りの3回は衆院選で、解散権である程度は選挙時期のコントロールが出来るが、4年の任期のどこかでやらねばならず決断が難しい。政権崩壊の危険因子である消費増税を、その延期や使途改変と絡めてうまく解散の大義名分とするなど(延期自体は国民は支持。かつ延期後の引き上げは再確認した「公約」であり批判されにくい)、ピンチをチャンスに変え、とてもうまく乗り切った。特に長期政権に対して国民的な「飽き」が来る後半の17年の衆院選、19年の参院選を、それぞれ多少は議席を減らしつつも勝利して乗り切ったことは、政権の守りの強さが際立った事象だ。

3番目のトランプ政権への対応だが、これこそ安倍政権の守りの強さを象徴する出来事だ。第2期安倍政権が丁度後半に入った約4年前、世界はもちろん、日本でも外務省ですら、米国大統領選では、ヒラリー・クリントン氏(民主党)の勝利を予想していた。

そんな中、2016年11月にまさかのトランプ氏(共和党)勝利となるが、ほぼゼロからの信頼醸成は見事で、各国指導者の中で最も強固な信頼関係を構築した。国際的には、言動に難があるトランプ氏に尻尾を振るがごとき安倍総理のふるまいは非難の的になりかねなかったが、対中国・対北朝鮮その他、現実的な地政学的リスクを考えての国益実現とばかりに、なりふり構わずトランプ氏のアメリカにすり寄った。効果的であったことは間違いない。

官邸サイト:編集部

その他、政権としては望まない形で降ってきた皇位継承や元号改変の話、保守派の朴政権とは段違いの韓国文政権の数々の反日的動き、最近のコロナ騒動など、特に後半に集中した感のある数多の受動的事象に対して、個別には色々と批判はあろうが、概ね、うまく対応して政権を守ってきたと言える。安倍政権は組閣の数も史上最多であるが、特に人事が難しくなる後半も、留任や再任、或いは転任(官邸の側近を閣僚にするなど)を多用し、当選回数的には大臣を希望する者が貯まって不満が高まる党内リスクをうまく抑えつつ、国民・国際向けの安定感を重視した。政策的には、あまり本質的な話とは言えない森友や加計、或いは、閣僚や側近の不祥事なども、ぼやから火が多少燃え広がったケースもあったが、総じてうまく消し止めたと見て差し支えない。

守りが機能した背景と後半の息切れ

守りの要は、菅官房長官や二階幹事長、そして、いわゆる官邸官僚、特に、私のかつての直接の上司でもあった今井秘書官(補佐官)や、同じ採用チームで働いたこともある佐伯秘書官などの経産省勢であったと見ている。

官邸の屋台骨を支えた政治家の世耕弘成氏(NTT出身)や西村康稔氏(経産省出身)や加藤勝信氏(財務省出身)などは、政治家ではあるが、その出身なども踏まえると「官邸官僚」として考えた方が適切かもしれない。特に官邸官僚組に関しては、リスクを取って時に独断専行的に官僚らしからぬ決断をする彼らの実力と、特に目立とうという意思は見せずに影になって粉骨砕身、公務無定量とばかりに働く姿勢を個人的に知る身としては、この守りの強さは当然の結果にも見える。

ただ、同時に、多分に周囲との軋轢というマネジメントリスクをはらんでおり、安倍総理から見れば、相当に難しい運営であったはずだ。約8年にわたって政権の骨格を守り切ったことは賞賛に値する。

経営学の世界では、いわゆる「柔道のメタファー」(三品和広氏)が用いられるが、企業幹部にとって重要なのは、かしこまって用意する「戦略」以上に、きちんと「受け身」が取れるかだ、ということが言われている。私見では、政治学・行政学の方が、この分野の研究が遅れている印象を持つが、安倍政権の強さの本質は、まさに、予想せぬ形で襲ってくる難題に対して、うまく「受け身」が取れたかどうかである。

直前の民主党政権では、今読んでも惚れ惚れするような5原則5策からなる「マニフェスト」が用意され、戦略的に、「政治主導」をどう実現するかが、きちんと詰められて用意されていた。しかし、その戦略を実現する暇もなく、沖縄の米軍基地(普天間基地)移設問題で、無理筋である「県外移転」を、支持率90%超え状態だった鳩山氏が打ち出してしまい(氏に言わせれば、政権発足前からの民主党の路線だったわけだが、無理なものを積極的に出してしまったのは失敗であった)、受け身が取れなかった。

そういう意味では、守りに強い安倍政権が、その下半身の強さを活かして果敢に攻めたのが前半であったと言えるが、後半は、せっかくのその「政治的資産」(ポリティカル・アセット)をうまく活用した果敢な攻めが見えなかったのはとても残念だ。

2014年の地方創生にはじまり、新三本の矢、一億総活躍、働き方改革、人づくり革命、全世代型社会保障、、、、と、石破氏の言ではないが「大河ドラマ」のように、毎年「目玉」となるキャッチ-な政策パッケージを打ち出していたが、これらは「攻め」とは言えない。ほぼ反対する人がおらず、打ち出しやすいが忘れられやすく成果も測られにくいものだからだ。例えば新三本の矢では、合計特殊出生率(女性一人あたりが出産する子供の数)で1.8を打ち出しているが、目立った成果はなく、むしろ最近は数値が下がっているくらいだが、効果検証がされて批判されることは、政権内部からの反省はもちろん、野党やメディアや国民的にも、ほぼ聞かれない。

安倍総理自身、辞任表明の記者会見で、憲法改正やロシアとの平和条約(北方領土)、北朝鮮拉致問題などの積み残し案件について忸怩たる思いを吐露されていたが、外交は相手のある話だから仕方がないとはいえ、憲法改正などについては、前半に見せたような果敢な攻めを見せて欲しかったのも事実だ。

とはいえ、冒頭に詳述したように、歴史に残る成果を挙げているのも事実で、まずは、病状の一刻も早い回復を期待したい。議員は続ける意向をお持ちのようでもあり、いずれ、総理への再登板もあるかもしれず、また、個人的には、いずれかの内閣での安倍外務大臣を期待したいと思っている。各国首脳に顔が売れていて、電話一本で話が出来る関係は、それだけで日本の「資産」であり、活用しない手はない。

③に続きます。

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朝比奈 一郎
青山社中株式会社 筆頭代表(CEO)

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