事業の素人である社外取締役の役割

企業のガバナンス改革で重要な役割を演じるとされている社外取締役だが、部外者として事業内容に精通していないものを経営の頂点の判断に関与させることの意味は何か、いわば素人ガバナンスの役割は何か。それは、事業の玄人であるマネジメントに対して何の貢献ができるのか。

素人のガバナンスには、少なくとも三つのことが期待されているのだと思われる。

第一は、手続きの瑕疵の有無の判定である。経営の素人には、内容にかかわる判断はできなくとも、例えば法律の玄人には、形式にかかわる判断は可能である。社外取締役に弁護士が少なくないことの理由であろう。

第二は、執行部門が策定した計画の論理的整合性と妥当性を、幅広く、また高い視点から、総合的に再評価することである。事業の専門性については、素人が玄人の知見を上回ることはあり得ないが、素人には、専門領域から中立であることと、浅くとも広い知見をもつことにより、しばしば、玄人に対する有益な助言の提供が可能なはずである。

第三は、透明性の向上である。専門家である執行部門は、素人に説明するために説明方法や資料に工夫する義務が生じて、それが専門家固有の偏った判断や行動に対する抑止力になると同時に、経営の透明性を高める効果を生むと思われる。

しかし、企業の経営上の業務執行は、専門家である経営者に委ねられねばならず、逆に、業務執行を一任されたものが経営者なのである。この経営者の機能について、素人のガバナンスの介入は許されないことである。企業経営の問題というよりも、一般的にいって、社会の秩序維持と発展のためには、各人は、自分の専門性を明らかにして、そこでは自信をもって発言し、行動すべきだが、そうでない領域については、そこには当然に別の専門家がいるのだから、その知見を尊重して行動しなくてはならないのである。

では、事業の素人である社外取締役の専門性とは何か、それは、常識と広い視野を備えた賢人としての専門性以外にはあり得ないであろう。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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