菅政権に対する新聞論調の優劣を点検

2020年09月21日 06:00

政治部というより政界部

就任記者会見に臨む菅首相(官邸サイト)

菅新政権が誕生し、デジタル庁新設、携帯電話料金の引き下げ、「縦割り110番」(行政改革目安箱) 、不妊治療の保険適用など、総論の提示がないまま、脈絡もなく各論が先に飛びだしています。メディアはこれらを追うのに精一杯で、新政権の基本的な国家観を分析する余裕がありません。

政治報道で繰り返されてきた批判は「日本の政治ジャーナリズムでは、次第に本来の政治部が姿を消し、政界部に変質している」です。政治の基本的なあり方を掘り下げる「政治部」から、目先の政局の動き、人事抗争、裏話を追う「政界部」になっている。その傾向が強まっています。

菅氏が新総裁に決まった時の朝日新聞の「社説余滴」(13日)の見出しは「すがすがしくおめでたい」です。「菅氏」の「すが」に引っかけて嘲笑しているようなコラムです。まるで長めのツイッター投稿です。朝日には、こんな調子の記事が目につくようになりました。

「政治技術として、『いじめ』を使うことをいとわない政治家の姿が見え隠れする」「またも言葉を光らせられぬ首相を選ぶ。ピンチの温床をまるごと継承。すがすがしいほどおめでたい」。菅氏にはこうした問題があるにしても、意地の悪い変化球でなく、菅氏に直球を投げてほしかった。

読んでいて「この文章は朝日新聞の体質を象徴している」と感じました。これは政治論ではなく、茶化した総裁批判です。この記者もテレビのワイドショーか、ツイッター社会の影響を受けているのか。読んでいると、気分が悪くなる。こんな政治論説を読んだことはまずなかった。

政権論を扱う社説は、直球を投げるべきです。朝日の一本社説の見出しは「安倍政治の焼き直しは御免だ」(15日)で、「高揚感には程遠い。政治のダイナミズムは感じられない」あたりまではいいでしょう。

主要派閥が水面下で菅氏支持を決めてしまい、政策論争は不在、新首相の政策が後から出てくる。順序を間違えており、こんな首相選びをしている国はどこにあるのかといった批判を朝日は強調して欲しかった。

次に「突然の首相辞任を受けたリリーフ登板であったとしても」というくだりがあります。「リリーフ登板」と、簡単にいい切ってはいけません。菅氏は長期政権を目指す意欲が旺盛と私は読みます。

時間がかかりそうな案件を矢継ぎ早に指示しています。「消費税は将来的には引き上げざるをえない」(その後、修正)の「将来的」の意味は「自分は長期政権を目指す」という気持ち込めたはずです。

ここで論じるべき本質的な課題は、「役所の縦割り、既得権益、悪しき先例主義を排して規制改革を進める」についてです。これらは官僚組織ばかりでなく、政界自身にも向けられている課題なのに、朝日は言及しない。

「役所の縦割り」は、政治にも当てはまります。小選挙区制で選挙地盤が県や市よりも小さな区域に細分化されている。知事や市長より小粒の国会議員が少なくない理由はそこにもあります。小選挙区は守りやすく、議員の新陳代謝が進まず、政権交代が起きにくい岩盤ができ上ってしまった。

「既得権益」の問題も政治に当てはまります。20人の閣僚のうち、11人が世襲議員です。世襲により「三バン」、つまり地盤(後援会組織)、看板(知名度)、カバン(選挙資金)を受け継ぎ、選挙で当選を重ねやすい。「既得権益」批判を政界に広げる論調が朝日にほしい。

一方、読売新聞は「経済復活へ困難な課題に挑め」として、「焦点は解散・総選挙の時期である。麻生副総理は早期解散に言及している。早期に解散して、新政権に対する国民の審判を受けるのか」と、結びました。

解散論では、朝日は「求められているのはコロナの収束に政府の総力を注ぐことだ」と、主張しています。読売は早期解散派、朝日は任期満了派でしょうか。短期間に国政選挙を繰り返し、その際、財政面、金融面で選挙対策を繰り出し、最悪の財政状況を招いたことに両紙とも言及しない。

安倍政権は12年12月の衆院選で圧勝し、政権を奪還しました。その半年後の参院選でも大勝、14年12月の衆院選は「消費税引き上げ延期」を掲げて圧勝、16年7月の参院選では「再延期」で大勝、17年10月の衆院選、19年7月の参院選でも勝利です。

1、2年ごとに国政選挙し、その間に地方統一選挙が入る。選挙をやるごとに、国の財政状況が悪くなっているという視点で論じることをメディアは好みません。国費(税金)を使った単価の高い選挙広告がメディアの懐を潤すからでしょうか。選挙数は少ないほうがいいのです。

新聞論調で気になったのは、日経新聞の菅首相の持ち上げ方のすごさです。編集幹部の署名入りの1面コラムで「時に乱暴と思えるほどの行動も辞さずに、照準を定めた課題を突破しようとする」「生来の性質を前面に出して大胆な改革を徹底的に実行し…」と、よくここまで書くなあです。

社説でも「政策に詳しく、決断力のある政治家が閣僚になる。官僚政治ではできない大胆な改革を政治主導で推し進めてきた。新内閣の人選はそうした変化を極めたものである」と、新首相の礼賛論を展開しました。ちょっと劇画調になりすぎていると、心配になりました。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年9月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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