学校の部活動が内包する搾取構造

愛川 晶

今、中学・高校の部活動が揺れている。

写真AC:編集部

7月17日、文部科学省は「教諭等の標準的な職務の明確化に係る学校の管理規則参考例等の送付について」という通知を出し、その中で、部活動に係る対応を「学校の業務であるものの必ずしも教諭等が担う必要のない業務」と位置づけた。つまり、部活動顧問は教員の職務に含まれないと明言したわけである。

これは、私の9月27日付の記事「教員免許更新制度の廃止で30人学級に踏み出せ」でも触れた通り、教員採用試験の倍率が低下し、また講師の希望者も激減して、教育現場が深刻な人手不足に陥っていることを憂慮したものと考えられる。言うまでもなく、教員の過重労働の大きな原因の一つは部活動顧問の業務であり、SNS上は教員の悲鳴であふれている。

しかし、前述した通知を読んだ私は内心「単なるポーズに決まっている。何も変わらない」と思った。中学・高校の部活動については、もう何十年も前から「社会体育への移行」の必要性が叫ばれてきたし、文部科学省自身も2017年12月に「学校における働き方改革に関する緊急提言」を公表し、「部活動を学校単位の取り組みから地域単位の取り組みとする」という将来的展望を示したが、現実はそこから少しも前進していなかった。

ところが、 8月31日になって、この件に関して新たな動きがあった。文部科学省がとりあえず休日の部活動については「地域部活動」とし、希望しない教員は指導に携わらなくて済むように地域のスポーツクラブなどの団体が管理・運営するしくみを整備し、3年後の令和 5年度から段階的に全国で実施すると発表したのだ。

ここまで具体的なプランが示されると、信用しないわけにはいかない。どうやら本気で部活動を学校から取り離し、地域の活動にするつもりらしい。とにかく一歩踏み出した点については評価したいと思うが、この改革の前途にはさまざまな障害が横たわっていて、教員・生徒・保護者、さらには社会全体の意識を変えない限り、達成することは難しい。

とても一回の記事では無理なので、分割して私見を述べることにするが、まず最初に取り上げたいのは部活動に関わるお金の問題である。本来であれば、運動部も文化部も活動に必要な経費は部員たち自身が負担するべきなのだが、そうなってはいない。学校単位で部活動に加入していない保護者からも強制的に徴収し、費用にあてているのが現実だ。

写真AC:編集部

あくまでもその一例として、福島県内のとある高校の実態を紹介しよう。

私は福島県立高校の教員として38年間勤務したが、校務に関する資料は個人情報を含むものもあるので、年度末か転勤する時にすべて廃棄してしまった。

ところが、2018年 3月に定年退職後、再雇用されて赴任した高校で、自分には一切の非がないにもかかわらず、夏休み中、福島県教育委員会から突然雇い止めを宣告され[『再雇用されたら一カ月で地獄へ堕とされました』(双葉文庫)参照]、離任式はもちろん、授業を担当した生徒に挨拶もさせてもらえないまま、当日のうちに学校から追い出された。信じられないだろうが、事実である。

その際、デスクの荷物を全部段ボールに詰めてきたため、それだけは手元に残っていたのだ。PTA総会で保護者全員に配布した資料なので、公表しても何ら問題はないと判断した。したがって、これから挙げる数字はすべて2017年度の決算書に記載されていたものである。

(1)生徒会会費 15,000円/1人+入会金 3,000円/1年生1人
収入総額 16,386千円(繰越金等含む)
支出総額 14,000千円
部活動関係の支出総額 10,507千円
内訳は登録費(ほとんどは部活動の)、旅費(県大会の生徒旅費の7割を補助)、ユニフォーム代、運動部・文化部の物品購入費など
※生徒会費の75%が部活動関係に支出されている。

(2)PTA生徒会活動委員会会費 13,000円/1人
収入総額 13,842千円(繰越金等含む)
支出総額 9,024千円
部活動関係の支出総額 9,024千円
内訳は高体連・高文連負担金、生徒旅費・教員の引率旅費など
※県大会を勝ち抜いた場合に上位大会旅費の補助を主な目的とする保護者組織で、「部活動後援会」という名称が一般的。全国的に存在し、入会や寄付が任意の場合もあるが、福島県内では強制的に徴収されている例が多い。余った金額はすべて次年度へ繰り越される。

(3)教育活動協力金 3,000円/1年生1人
収入総額 1,000千円(繰越金等を含む)
支出総額 941千円
部活動関係の支出総額 878千円
※ほとんどが部活動の補助にあてられており、この年は弓道部・バレー部・バスケ部の用具を購入している。

計算してみると、この高校の新入生の中で部に加入していない生徒の保護者は1年間に、生徒会費13,500円(18,000円の75%)+生徒会活動委員会会費 13,000円+教育活動協力金 3,000円=29,500円を他人の子供が部活動をするために支払っていることになる。しかも、徴収は強制的で拒否する権利は与えられない。

さらに非常に大きな問題は、運動部・文化部の部員の中で、自分たちがいわゆる帰宅部の生徒たちから多大な恩恵を受けていることを自覚している者が誰もいないことだ。その証拠に、生徒会主催の壮行会の際、各部の部長は壇上から「応援よろしくお願いします」と言って頭を下げるが、「活動経費のご支援ありがとうございます」と言ったのは一度も聞いたことがない。中学校では、生徒全員を部活に強制加入させている学校もあるが、その場合、大量の幽霊部員が発生するので矛盾はまったく解消されない。

このような異常な制度を唯一正当化できるとすれば、「各部は学校の代表として大会に出場しているから」という理由である。実際のところ、この論理を振りかざして「もっと金をよこせ」と主張するBDK(部活大好き教員)ならば、過去にうんざりするほど目にした。

それが正しいとはまったく思わないが、文部科学省の方針通り、部活動が学校から切り離されれば、まさかそれ以降も帰宅部の保護者から搾取できないだろう。

しかし、教育において大切なのは継続性であり、制度が突然激変するのは望ましくない。家庭が経済的に苦しくても部活に打ち込みたい生徒はたくさんいるのだから、彼らを失望させないよう、行政が補助するなり、地域的に寄付を募るなり、早急に新たな仕組みを構築する必要がある。

最後につけ加えておくが、新型コロナウィルスの影響で部活動の大会が軒並み中止となった2020年度は生徒会予算も部活動後援会の予算も大幅に余るはずだ。これらを徴収する趣旨から言って、残額を翌年に繰り越すことは許されない。最低でも来春卒業する3年生には返金が行われるべきだし、各自治体の教育委員会は各校の校長にきちんとそう指導すべきだ。