【特報】富山知事選、県職員が現職の選挙準備関与?「証拠」独占入手(追記あり)

2020年10月06日 13:40

富山県知事選に出馬する現職の石井隆一氏(公式サイト)

富山県知事選(8日告示、25日投開票)に立候補を予定している現職の石井隆一氏の選挙用の資料づくりに、県の職員が関与している疑いがあることが5日、明らかになった。複数の関係者から、知事の公務と個人の政治活動の“公私混同”を厳しく批判する声があがっており、事実だった場合、専門家からはコンプライアンス上の問題を指摘する意見が出ている。

独占入手① 立候補予定者討論会の想定問答

関係者によると、少なくとも4つの局に渡って職員が資料作りなどに関与した疑いが浮上している。このうち、アゴラ編集部は、県のイントラネットにアップされた可能性がある資料の画像を入手した。

それによると、県の総合政策局所管とみられるフォルダに、「知事選立候補予定者想定問答」と題したワードファイルが少なくとも3種類確認できる。「0909」「0917」「0923」などの数字は、文案を作成し、ドラフトの修正を繰り返した日付とみられる。実際、9月26日に富山市内で立候補予定者討論会が開催されており、この文書が討論会に向けて作られた可能性がある。

編集部で入手したイントラネットの画面全体

当該ファイルのアップ画像

さらにこのファイルの中身には、次のように「当日の留意事項」と題したメモが存在していたとされる。右上には、作成したとみられる職員の実名入りで注釈があり、

大変失礼ながら、当日、気をつけられた方がいいのではないかと思う点をまとめさせていただきました。

などとへりくだった言い方で、発言中の視線や言葉遣いに対して助言する内容になっている。

討論会当日の留意事項。青の加工部分は職員名らしき作成者の名前が

さらにこの留意事項のあとのページには、新型コロナ対策や少子高齢化など、討論会のプログラムにあった政策テーマごとに回答すべき内容を列挙したメモも存在していた。

イントラにあった政策テーマの模範回答の一部

実際の討論会で、石井氏はこのメモをそのまま読み上げこそしていないが、発言内容のポイントではメモの内容を意識しているように見える。

独占入手② 知事政策集の下書きエクセル

さらに同総合政策局フォルダ内部にある財政課名義のフォルダには、「政策集体系案(未定稿)」と銘打ったエクセルファイルが存在する疑いがある。アゴラ編集部はこのエクセルの内容も入手。エクセルシートには「新たな知事政策集の体系」という見出しのもと、100の政策集について「令和2年8月版」と「平成28年9月版」の2つが存在する。

左側が最新の令和2年8月版、右側が前回の平成28年9月版

この最新の「令和2年8月版」と、知事の公式サイトにアップされた「石井たかかず政策集」のPDFファイルを比較すると、各政策の見出しは一部が違うものの、ほぼ同じ内容だった。

また、エクセルシートの別のページには、「新たな知事政策集の体系(●●局長作成ベースのものを整理)」と記載されていた。元の画像には現職の総合政策局長の名字が記載されており、文意から、この局長が政策集の下地を作った上で別の職員が加筆したとも取れる。

下書きのベースを整えたのは青の伏字部分の局長か

職員が実質的な“選挙準備”なら違法性はあるのか?

公職選挙法では、公務員の地位を利用しての選挙運動を禁止している。また地方公務員法では公務員の政治的行為を制限しているが、仮にこれらの資料が、県職員が県のパソコン内部を使って作成していたとなると「違法性」はあるのか。

関係者は「県庁のPC内に本来あってはならないもの」と指摘する。少なくとも9月24日ごろの時点では、イントラネットは総合政策局以外の職員も含め多数が閲覧できる状態になっていたようだ。また別の関係者は「資料づくりにかかる人手や経費が税金で賄われてしまう」と憤慨している。

検事時代に、数々の選挙違反事件を手掛けた郷原信郎弁護士は「最大の問題は一連の資料が『選挙運動』と言えるかどうか」と指摘する。つまり、石井氏が知事としての「公務」で活用するものなのか、知事選の立候補予定者討論会という「政務」(政治活動・選挙準備活動)の一貫で使われるものなのか、がポイントになる。

2点の資料のうち「想定問答」を作ること自体の違法性について、郷原氏は「形式としては今後の富山県の在り方を論じる内容とも言え、ただちに選挙運動とは言い切れないかもしれない」と慎重な見方を示した。ただし、討論会が告示前とはいえ立候補予定者を集めて行っている点については「選挙運動に限りなく近いものを想起させる」と指摘。総合的に判断して“黒に近いグレー”と言えるかもしれない。

コンプライアンス上の問題は明らか

他方、職員が下書きしたとみられる「政策集」は石井氏の公式サイトにアップされている。公選法で禁じる「公務員等の地位利用」について定めた136条の2第2項4においては

その地位を利用して、新聞その他の刊行物を発行し、文書図画を掲示し、若しくは頒布し、若しくはこれらの行為を援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。

と定めており、政策集がインターネット上で掲示される文書図画にあたる可能性もある。仮に県の職員が政策集の下書きをしていた場合、上述の条文に照らし合わせると、「文書図画掲示の支援」に抵触しかねない。

郷原氏はこの違法性についても「ただちに断定しづらい」と言うが、コンプライアンス観点については次のように指摘した。

「仮に形式上は選挙運動として該当しないにしても、首長が資料を作成させたにせよ、職員が自発的に作成したにせよ、自治体行政のコンプライアンス上、問題が大きいことには間違いない

なお、政策集の3ページ目のタイトルは「5期目のビジョンと公約 富山県民を、守り抜く。 さらなる飛躍に向けて挑戦。 」を掲げている。

石井たかかず政策集より

現在4期目の石井氏が、5期目を目指す「選挙」を明らかに意識した内容になっており、この点からも職員らが選挙用の資料だと認識して下書きしていた疑いが出てくる。また、誰が作成したにせよ、公選法で禁止された告示前の選挙運動(事前運動)に抵触する可能性もある。

県広報課「確認したい」。アゴラは即日で情報公開請求

アゴラ編集部は5日、県の広報課に対し、イントラネット画面の真贋について確認を行ったが、取材に応じた担当者は「調べた上で確認したい」と述べた。ただ、「仮に本物だと判明しても(公開対象の文書として)お伝えできない場合もある」との見解も示した。

このため編集部は広報課に対し、あらためて確認結果を知らせるように要請するとともに、取材後には情報公開の窓口を訪問。当該文書のありかとなるフォルダ情報を提示した上で開示請求を手続きし、受理された。

富山県の情報公開制度では、請求を受け付けてから15日以内に開示か非開示かを決定し、請求者に書面で知らせる。これによると遅くても20日までには決定され、知事選投票日(25日)の前には間に合う公算だが、請求対象者が当事者の石井知事であるため、素直に請求に応じるかは不透明だ。

文書は本物か?注目される知事、県の対応

8日に告示される富山県知事選は、5期目を目指す現職の石井氏のほか、日本海ガスホールディングス前社長の新田八朗氏、NGO代表で共産党が支援する川渕映子氏が立候補を表明している。

自民党は石井氏を推薦しているものの、一部は新田氏の支援に回ったことで半世紀ぶりの保守分裂となる激しい選挙戦が予想されている。ここにきて自民党内の主導権争いは中央の大物政治家を巻き込み始め、麻生副首相兼財務相が石井氏を支持すれば、森喜朗元首相は新田氏を応援する事態に発展した。

急転直下、告示直前に明らかになった疑惑。今後、石井知事や県がどう説明するのか。もし告発した文書の内容が本物だった場合、コンプライアンス上の問題が浮上するのは避けられない。本物なのか否か、知事選を控えるなかで、県民や地元マスコミの関心が高まりそうだ。

【追記① 11:20】問題の2つの文書のうち、立候補予定者討論会の想定問答に含まれていた「当日の留意事項」について作成者として名字が書かれていた職員は6日朝、アゴラ編集部の取材に対し、県庁内でのパソコンを使って作成したことを認めた。

この職員は総務省のキャリア官僚で県に出向中の経営管理部長だった。同部長は取材に対し「(自治省出身の)知事は先輩で大変お世話になった。個人的な思いから留意点を書いたものだが、庁内のパソコンを使ったことは軽率だった。申し訳ない」と謝罪した。作成は職務時間外だったとしている。これにより、一連の文書がイントラネットに存在していたことが決定的となった。

【追記② 13:30】2つ目の文書「政策集体系案(未定稿)」に名前があった総合政策局長は6日昼、アゴラ編集部の取材に応じ、当該文書の存在を認めた。公用パソコンや庁内イントラに保存していたことについては「軽率だった」と反省の意を示したが、「(山崎康至)副知事から(選挙の)参考資料として提供を受けたものを財政課長と共有したものだが、自分が下書きや加筆に関わることはない」と、選挙準備に関わる意図はなかったと否定した。当該文書には「●●局長作成ベースのものを整理」と主体的に関与しているかのような記述があったが、これについては「自分は知らない」とコメントした。

訂正   討論会の日付は23日ではなく26日の誤りでした。

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