月曜日、日経のトップ記事は「住宅ローン完済年齢上昇 平均73歳 年金生活不安定に 審査、老後リスク吟味必要」。興味深く記事を拝見させて頂いたのですが、昨日のブログのコメントにもその報道に関するコメントがあったので少し観点を変えて考えてみたいと思います。
長く私のブログをお読みの方は私が必ずしも持ち家主義ではないことを知っていると思います。先進国の持ち家比率は概ね6割強、つまり、乱暴な見方ですが、大体2/3の方が持ち家となっています。
戦後、日本政府を含め、各国は持ち家政策を推進しました。その結果、住宅需要が高まり、土地が高騰し、不動産は儲かるという神話が生まれました。若いうちに住宅を買う流れは世界でも同様ですので結婚したら住宅を買うという自然な行動が見受けられます。ただし、儲かるかどうかは別であります。また、持ち家比率は先進国でも不思議と80%や90%にはならず、大体2/3で頭打ちという傾向が見て取れます。
日経の記事によると、結婚期が近年遅くなり、住宅取得のタイミングも後倒しになり、一方で住宅価格が上昇し、ローンの借り入れ価格も上昇するので当然長い返済期間で返済の負担も重くなります。これも元気でバリバリ働いている時ならよいのですが、今や50代から給与は大きく減り、60歳からは雇用こそ守られるけれど給与は数割減となります。すると返済額が重くのしかかり、老後のバラ色設計が成り立たないというわけです。
一方、持ち家主義派からすれば賃貸住宅に入っていても働けなくなって収入のフローがなくなればアセットの切り崩ししかなく、これは極めて不安だ、というわけです。なるほど。これも一理あります。
私が心配する一つはタワマンなどの管理費が高いマンションです。持ち家がいくら良いといっても持つだけでかかる費用はいろいろあります。そしてマンションは様々な方がそこに住み、そのメンテやクオリティをある程度の水準に保つために一定比率の管理費と修繕積立金を払わねばなりません。
これは通常、建物が古くなればなるほど修繕に金がかかること、さらには管理費の未払いが溜まれば自分の不動産を競売にかけられるリスクがあります。管理費と修繕積立金は70㎡ぐらいで概ね月々2万数千円というところだろうと思います。それと戸建て、マンションに限らず固定資産税がかかります。
つまり、所有するとはローンフリーになってもなにがしかのお金はかかるものでローン完済=無料住宅ということにはならないのです。
もう一つ、北米と違い、日本は建物の部分の減価償却が重い負担です。木造なら22年で償却するのでローンを払い終わった時、住宅の上物部分は概ね価値がゼロ、つまり、その不動産の価値は土地分しかないことになります。日本で古い家が多く、建て替えが進まないのはローンの魔法で手足が縛られてしまっていることがあります。
更に日本人が農耕民族型で「おらが村」的発想が強く「住めば都」。一方引っ越しをすれば「よそ者扱い」されることで引っ越しが少ないこともあります。(会社の転勤は別です。)
日本で持ち家比率を増やし老後を安定させるならこの償却の発想を変え、固定資産税の評価計算の方法も変え、銀行が償却済みの物件にもローンを付けるといった展開が前提になると思います。これにより中古住宅市場がより活性化し、新築住宅の人口増に見合わない無尽蔵で無節操な増大を抑制し、既存資産の見直しにつながると思います。
ちなみに私が持ち家の絶対信奉者でない理由は若いうちはライフスタイルが不安定、転勤のリスク、更には最近は転職のリスクもあるので人生後半までにしっかり貯めて、方向性が見えたら自分たちにふさわしい家をほぼ現金で購入する選択肢もアリだと考えるからです。
それこそ、中古住宅で自分なりのリノベをするのは楽しいと思います。ただ、奥さん同士の井戸端会議で「あの方、チンタイだって」というしょうもない話に「やっぱり、うちも買いましょう」とせがまれるご主人の立場というシナリオもあるのでしょうね。
確実に言えることは住宅は自動車と同じで日本ではごく少ないエリアや物件を除き、原則儲かるものではありません。そしてライフスタイルは自分が決めるのであって廻りに促されるものではないということです。
住宅はお持ちになってもよいし、賃貸でも構いません。大事なのは人生設計がそこに反映されているかどうか、それがすべてだと思います。意志の弱い方は住宅ローンの強制力で道を外さないという選択肢ももちろんありだと思います。でも70過ぎてのローンって寂しいですよね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月6日の記事より転載させていただきました。