先月末、経済学者の竹中平蔵氏(元総務大臣)が、ベーシックインカム論をテレビ番組で提唱し、議論を巻き起こしている。
その内容は、マイナンバーと銀行口座をひも付けて所得を把握することを前提に、国民全員に毎月7万円を支給、その上で所得が一定以上の人は後で返すようにするというものである。つまり、所得制限付きベーシックインカムというものだが、これを実施することにより、生活保護や公的年金制度が不要になり、ベーシックインカムの財源にできると言う。
ベーシックインカムを導入したらどうなるのか。その現実を見せてくれているのが、スペインである。スペインは5月にベーシックインカムの導入を決め、6月中旬から申請受付をスタートした(対象は約230万人の生活困窮者)。しかし、審査や承認が大幅に遅れ、国民の不満は高まっているという。
また、スイスではベーシックインカム導入の是非をめぐる国民投票が行われたが、反対派が多く、2016年に否決されている。
その一方で、アメリカ、カナダ、オランダ、イタリア、インド等、世界各国で導入実験が行われている。その結果、貧困から抜け出せた、犯罪が減ったなどの「利点」があったという。しかし、犯罪が減ったのは、本当にベーシックインカムのお陰かどうか、しっかりと検証する必要があろう。
ベーシックインカムとは本来、すべての個人に無条件で一定額を継続して給付するという政策であり、スペインの事例や竹中氏の提案は、ベーシックインカムの本義からはズレている。一定程度の所得がある者の勤労意欲を無くすことにも繋がりかねない。
以上のことを考えれば、竹中氏が提唱するベーシックインカムを導入すれば、日本は亡国の危機に瀕するであろう。菅義偉首相は「自助・共助・公助」を標榜しているが、もしこの竹中氏流のベーシックインカムを導入するならば「7万円あげるから、あとは自分で頑張って」と言う極端な「自助」のみの社会になってしまうのではないか。
こんな制度を導入するほど、政府も無情ではないと思うが、一抹の不安は残る。もし、万が一、導入するにしても、諸外国の事例の研究や細かなシミュレーションなど慎重のうえにも慎重な態度が求められるのだ。
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濱田 浩一郎(はまだ・こういちろう)
兵庫県出身 。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。