本当に治療が必要な人は? もっと恐ろしい歯周病の事実

中田 智之

「日本人の8割は歯周病」というフレーズを聞いたこともあると思いますが、これは誤ったメッセージになっていると感じています。

写真AC:編集部

この8割という数字はわずかな兆候も含めた場合であり、本当に歯周病で健康を損なう人の数字ではありません。厚労省からも「ウソではないが大げさ」とツッコまれています。(参考)歯周疾患の有病状況 ― e-ヘルスネット(厚労省)

このフレーズが良くないと感じるのは、「赤信号みんなで渡れば怖くない」の理屈で、自覚症状があったとしても「自分だけじゃなく8割の人がそうなんだ」と事態を矮小化し、深刻な状態になるまで治療を先延ばしにする可能性があるのではないかと思うからです。

まず、2016年のデータによると「歯ぐきが痛い、はれている、出血がある」と回答した人は15%以下でした。歯周病は自覚症状が小さいまま進行する病気として知られていますので、自覚症状を伴う場合は重症化している証です。この15%に該当する場合は今すぐ歯科医院に行った方がよいと言えます。

(厚生労働省ウェブサイトより引用:歯ぐきが痛い、はれている、出血があると回答した割合)

2018年のデータでは歯と歯肉の境目、歯周ポケットの深さのデータが示されています。これが6mm以上の場合、「歯周外科治療を検討すべき重度歯周病」と考えるのが一般的です。これは30~50才の5%程度、50才以上の10%程度が該当します。

このような重度歯周病は自然治癒することはなく、歯科治療を受けなければまもなく揺れが大きくなり、最終的に抜け落ちます。歯を失う原因の中で歯周病は37.1%と最大の割合を占めており、6mm以上の歯周ポケットが増えるのと同じ50才から増えていきます。

このように数字を並べていくと、明確に治療が必要な歯周病患者は10人に1人程度で、自覚症状が現れていたら歯医者に行く必要があると考えるのがよさそうです。

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歯周病による歯の喪失は50代から増えますが、その原因は40代くらいから始まっていると言えます。さらにいうと、30代で既に症状がでている場合は体質的に歯周病に対する抵抗力が弱く、歯を失うリスクがかなり高いと考えることができます。

病気を自覚するのは怖いことで、本能的に「自分は8割の人と同じようなもんだ」と安心したくなるのが人間の精神性と言えます。

そうではなくて、歯肉に明確な症状があれば「10人に1人の重度歯周病の可能性が強い」ということであれば、本当に必要な人に対して早期受診を訴えることができるのではと考えております。