米大統領選を読み誤る世論調査の難しい時代

2020年11月14日 06:00

サンプリングを困難にした社会の分断

米大統領選は事前の世論調査では、バイデン氏の圧勝という予想でした。それがトランプ氏の猛烈な追い上げで、大接戦に持ち込まれ、「世論調査も大統領選の敗者」という批判が高まっています。

Gage Skidmore/flickr

前回の16年の大統領選では、多くの世論調査「クリントン氏勝利」が見事に外れました。その結果を踏まえ、調査方法を改善したはずなのに、「またしても世論調査会社は面目を失った」(WSJ紙)になりました。

もっとも、ジョージア州に本拠を置くトラファルガー・グループは16年に「トランプの番狂わせの勝利」を予測し、トランプ対クリントンの獲得選挙人数まで「ピタリと言い当てた」(NYタイムズ紙)。

さらに「今回、トランプ氏の支持率はバイデン氏とかなり拮抗。激戦州ではトランプ氏がリードを保っているところが多い」(同)と、再び正確な予想をしたため、注目の的になっています。

隠れトランプ支持者の本音を引き出す独自の手法を使ったそうです。「あなたが支持するのは誰」とだけ聞いても、本音を言わない。そこで同時に「あなたのお隣さんが支持しているのは誰」と聞く。

さらに調査後、フォローアップの電話をかけ、30分ほど雑談する。全員と話する時間はないはずだから、電話する相手を選ぶノウハウがあるのでしょう。話を聞けば「なるほど」ですね。ただし、多くの世論調査会社は同社の手法に懐疑的だそうです。

da-kuk/iStock

世論調査が狂いだしているのは、人種間の対立、所得格差の拡大、地域格差の拡大、大卒とそれ以下という学歴格差、男女間の差異など、社会経済構造を構成する要素が複雑になり、正確なサンプリング(調査対象の絞り込み、設定)がしにくくなっているためでしょうか。

支持率の予想に有権者がどう反応するかというアナウンス効果の行方も、事前には容易にはつかめません。バンドワゴン効果(勝ち馬に乗る)とアンダードッグ効果(負け犬のほうに同情票が集まる)のどちらが大きいかの事前予想は難しい。

世論調査では、バイデン氏とトランプ氏の支持率の差は7㌽ないし10㌽(実際は3㌽)もあるとされました。投票率が66%に達し、120年ぶりの高水準だったところをみると、トランプ支持者が危機感を持ち、投票所に走ったのかもしれません。

事後的に考えると、一種のアンダードッグ効果のほうが大きかった。トランプ氏は「郵便投票は民主党の不正を助長する。不正があれば、法廷闘争に持ち込む」と示唆していましたから、終盤にかけて、トランプ支持者が結束した。熱狂的な支持者が存在したことの証明です。

逆にバイデン支持者は高支持率に安心してしまった。それでも史上最高の7500万票を獲得したのですから、今後の投票行動の分析を待ちましょう。

世論調査は米国が最も進んでいる国です。日本では、敗戦後に米国の支援で世論調査が始まりました。「民主主義の国アメリカで育った科学的な世論調査を日本に根付かせるため、メディアからの相談にも積極的に応じてきた」(世論調査とは何か/岩本裕、岩波新書)そうです。

岩本氏は「世論調査は、有権者の考えを知って、選挙運動に役立てる道具として発展してきた。世論調査は民主主義の礎。選挙が世論調査を発展させた」と、指摘しています。

世論調査先進国の米国で、社会分断・分裂が進み、選挙結果の予測が外れるようなったのは、皮肉なことです。米国に比べると、日本は人種間の対立や、暴動を伴うような社会の亀裂もなく、世論調査の正確度が高い原因になっています。

もっとも、「次の首相にはだれがふさわしいか」の世論調査の問いに、4番目位だった菅氏が首相に選ばれました。日本は間接選挙ですから、自民党内部の密室の駆け引きで総裁(首相)が決まります。有権者は密室の様子を知ることはできませんですから、こういうことが起きる。

一方、直接選挙は、トランプ氏のような希代のアジテーターが出現し、大衆の不満(錆びついた工業地帯)を背景に大統領に当選し、2度目の選挙でも、あわやの大接戦を演じる。世論調査が難しい時代に入ったことは間違いありません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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