“MMTの感覚論” ケルトン教授の床屋談議

藤巻 健史

MMTの提唱者、ケルトン氏(Paul Thomas /Wikipedia)

日経新聞(11/12)のケルトン教授の論考を読んだが、「何言っているの、この人?という感じだった。

米の次期政策、MMTに合致 ステファニー・ケルトン氏(日経電子版)※リンク先は有料会員

金融理論を知らない人の床屋談議に過ぎない。単なる感覚論だ。そもそも金融の基礎がわかっていない。米国の一流経済学者や金融実務家が議論に値しないとケルトン教授を歯牙にもかけない理由がよく分かった。

藤井彰夫論説委員長の解説が補足されているが、

ただ、金融政策が万能ではないにしても、政府が経済の全てを管理・統制して機動的に政策を発動できるとは限らない。政府の力を過信しているようにもみえる。ケルトン氏は、バイデン氏がMMTの枠組みに沿った財政支出拡大をするとみている。だが財政支出に積極的な民主党であっても、MMTの議論に100%乗った政策はとらないだろう。

との論評するあたり、ケルトン理論に決して賛成とは思えない。

ケルトン氏は「政府が歳出を増やすことによって新たな通貨を生み出す」と書いているが、政府の歳出は新たな通貨など生み出さない。政府が歳出を増やせば日銀の日銀の負債サイドの政府預金残高が減り、日銀当座預金が増える。民間銀行の貸し出しにより、信用創造でマネーストックも増える。しかしながら、政府歳出のために増税を行えば、日銀当座預金が減る。もしくは赤字国債を発行しても日銀当座預金が減る。いずれも信用創造の逆回転が働く。

「政府が通貨の発行者である」とケルトン教授は書いているが、これは統合政府論の考え方である。現実には通貨の発行者は中央銀行であり、中央銀行が国債を買い取らないと新しい紙幣は刷れない。

ケルトン教授は冒頭で「MMTは、中央銀行が政府の財政をファイナンスすることだと誤解している人がいるがいるようだ」と書くが、財政ファイナンスをしなければ巨大な歳出は賄えない。しかも政府統合論が間違っていることは今や明白。親子の貸し借り(政府VS日銀)は相殺されても外部からの借金は残る。

相殺した結果、残るのは政府の資産と日銀の負債の日銀当座預金だ。日銀当座預金は民間金融機関からの借金であり、景気回復期には莫大な金利支払い義務が生じる。せっかく政府が長期固定の国債で資金調達をしたのに、日銀が当座預金という極めて短い負債に切り替えてしまっている。

統合政府論で考えれば、日本は金利上昇に極めて脆弱な体制となってしまった。財政は健全どころか、見た目より悪くなるのだ。ケルトン論文に対して、後の問題は藤井論説委員長が、コメントしてくれている通り。ケルトン論考は机上の論考に過ぎないが、それも金融実務を全く知らない人の机上の空論だという思いを強くした。