感染症の死者は昨年より大幅に減って人口減少が止まる

池田 信夫

新型コロナは欧米では深刻な脅威だが、日本では季節性インフルエンザより大きな脅威ではない。感染症のリスクを国際比較するには、コロナだけではなく他の感染症を含めて平年より死者が何人増えたかという超過死亡でみる。

図1 海外の超過死亡(FT.com)

図1を見ればわかるように、アメリカでは12月までに超過死亡が27万3000人にのぼり、これは平年を24%上回る。このうち約20万人がコロナによる超過死亡と推定されている。イギリスでは6万7500人で、37%増である。

では日本はどうだろうか。国立感染症研究所などの推定によると、図2のように8月・9月の死者数は平年をやや上回ったが、7月までは平年より少ないので、今年の超過死亡(死者数-平年値)はマイナスである。11月以降、コロナの死者がやや増えたが、1ヶ月に数百人なので大勢に影響はない。

図2 日本の月次死者数の推移(国立感染研)

人口動態統計でみても、表1のように、今年の死者は9月までの累計で約1万8000人減っている。このペースだと、今年の死者は昨年より約2万4000人減ると予想される。増え続けていた死者が逆転し、自然減が3330人減った。少子高齢化の日本で、一時的にせよ人口が下げ止まったのだ。


表1 人口動態(厚労省)

その最大の原因は、インフル患者が平年より大幅に少ないことだ。表2のように、今シーズンの患者は累計で202人。これは729万~2257万人だった昨年までに比べて桁違いに少ない。コロナの検査陽性者数は累計17万7000人なので、その増加よりインフル患者の減少の影響のほうがはるかに大きいのだ。

時事通信の表を加工

表2 インフルエンザの患者数

インフルが減った原因は不明だが、コロナ系の風邪が流行する年は、ウイルスの干渉でインフルが流行しないといわれる。それ以外の感染性胃腸炎などの感染症も大幅に減っており、自粛の影響がすべての感染症に出ているとも考えられる。大量にPCR検査をやったコロナで陽性者を大量にみつけているだけで、感染症の実質的な被害は減っているのだ。

いずれにせよ日本政府の感染症対策は、今までのところ成功と評価できる。死亡率が欧米より2桁も少ない原因は、自然免疫や交差免疫などの生物学的要因だと思われるが、移動制限や接触削減の効果もあっただろう。むしろ経済的なダメージが、感染症対策の効果よりはるかに大きい。

超過死亡を感染症被害の客観的な指標と考えると、それがマイナスだということは日本の感染症対策は過剰だったということを示す。政府の目標はコロナ感染をゼロにすることではなく、社会的コストを最小化することである。今は感染が拡大しているので自粛はやむをえないが、流行がピークアウトしたら移動制限や接触削減をやめ、通常の生活に戻すべきだ。

【追記】読者の指摘で「人口が増える」を「人口減少が止まる」と訂正した。