ツイッターがトランプのアカウントを凍結した複雑な理由

池田 信夫

ツイッターがトランプ大統領のアカウント@realDonaldTrumpを永久に凍結した。これに対してトランプは大統領の公式アカウント@POTUSで反論したが、これも削除されたようだ(今は表示されない)。これが世界中で大論争を呼んでいるが、この問題には複雑な背景がある。

まず今回の措置は、合衆国憲法修正第1条に定める「言論の自由」の侵害にはあたらない。この規定の主語は「連邦議会」つまりアメリカ合衆国の公権力であり、私企業であるツイッター社とは無関係である。したがって刑事訴追もできない。

ではこれが民事上の賠償の対象になるかというと、おそらくならないだろう。ツイッター社はこれまでもたびたび凍結の可能性を警告しており、それを無視したのはトランプである。ウェブサイトが規定に違反したアカウントを停止するのは日常的なことで、大統領に特別の権利があるわけではない。

ではツイッターの公共的なプラットフォームとしての責任はどうだろうか。このトランプの削除されたツイートに「第230条という政府の贈り物がなければ[ツイッター社は]ながく存続できない」と書いているのがポイントである。

大統領公式アカウント(@POTUS)の削除されたツイート

政府はプラットフォームを規制すべきか

これはインターネットの初期から論争になってきた問題で、アメリカでは1996年に通信品位法の第230条でこう定めた。

双方向コンピューターサービスの提供者や利用者は、他のコンテンツ提供者が提供した情報の発行者や表現者として扱われないものとする

つまりプラットフォーマーは出版社や新聞社のような「発行者」ではなく、通信会社のような「パイプ」だと考え、編集責任を免除しているので、コンテンツについて訴訟を起こされるリスクがない(日本のプロバイダー責任制限法にも同様の規定がある)。アカウント削除についても責任を問われない。

トランプが昨年12月に国防権限法案に拒否権を行使したとき、この第230条の撤廃を求めた(議会が再可決)。自分を批判するプラットフォームに政治的圧力をかけるためだが、ハーバード大学の経済学者にも、プラットフォームを分割しないで、電力や電話のようなインフラと同じ自然独占として規制すべきだという議論もある。

規制の好きなバイデン政権が、第230条を撤廃してプラットフォームを規制することは十分考えられる。こうした規制強化論の根拠になったのが、暴動を扇動するようなトランプの投稿だった。それに対して、フェイスブックやグーグルもコンテンツの自主規制を強化している(アゴラも最近グーグルの検索順位が下がって困っている)。

だからこの問題には、プラットフォーマーが政府の規制強化を避けるために自主規制を強めているという政治的背景がある。民主党政権に対して「第230条を撤廃しなくてもトランプは追放した」と説明できるわけだ。

これをどう考えるかはむずかしい問題で、GAFAが国家を超えるグローバル権力になった今は「インターネットの自由を国家権力から守れ」という単純な話にはならない。日本でも国内法の規制をほとんど受けないプラットフォーマーをどうコントロールするかは大きな問題である。

アゴラ経済塾「デジタル資本主義の未来」では、こういう問題も考えたい(ネット受講はまだ受け付け中)。