政府紙幣についての疑問 - 池田信夫

池田 信夫

自民党で、政府紙幣の議員連盟が発足しました。党内でも「異説の類」など否定的な意見が圧倒的ですが、これはそれほどナンセンスな政策ではありません。かつてスティグリッツが、日本政府に提案したこともあります。彼はこう解説しました:

「政府紙幣の発行を始めれば、ハイパーインフレを招かないか」と質問される方がおられるでしょう。理論の上では、世界は非常に不連続的であり、日銀と財務省の適切な政策についての私の観察では、たとえ政府紙幣の発行を始めたとしても印刷機のスピードをただ速めるようなことはしないと確信しています。政府紙幣の発行スピードは非常に緩やかなものとなるでしょう。真の問題は、政府紙幣を増発しすぎるということではなく、むしろ政府紙幣の増発が不十分な量で終わるということです。


債務ファイナンスに比べてこの方法には多くの利点があります。その一つとして、債務ファイナンスの場合には、3ヶ月毎、6ヶ月毎、1年毎、5年毎というように債務を借り替える必要があります。しかし、政府紙幣を発行した場合にはその必要はありません。発行された紙幣は恒久的に償還されません。

スティグリッツもいうように、ハイパーインフレの心配は、あまりないと思います。むしろゼロ金利状態で政府紙幣を増発しても、国債と代替的になって市中に流通するマネーストックが増えない可能性のほうが強い。しかし「発行された紙幣は恒久的に償還されない」という点はどうでしょうか。日銀の白川総裁は2月3日の記者会見で、次のようにのべて政府紙幣に反対ました:

政府紙幣が現在の貨幣、つまりコインと同じ仕組みで発行されるケースを考えてみると、現在の貨幣は市中から日銀に還流してきた段階で政府においてこれを回収するための財源が必要となる仕組みとなっており、政府紙幣もこれと同じとなる。政府紙幣の発行は結局、政府紙幣が戻ってきた段階で資金調達が必要になるという意味で、国債の発行と実態的に変わりがない。

政府紙幣が市中から日銀に還流して来たとき、仮に政府がこれを回収せず、日銀に保有され続けるという形で政府紙幣が発行されるケースを考えると、政府は回収のための財源を必要としないことになるが、この仕組みは日銀に 無利息で償還期間のない政府の債務を保有させるという点で、無利息の永久国債を日銀に引き受けさせることに等しく、大きな弊害が生じる。

要するに、市中から還流してくる段階まで考えると、政府紙幣は国債と変わらず、それを日銀が回収すると、財政法で禁じられている「国債の日銀引き受け」と同じことになる、というのが彼の懸念です。通貨発行益がまるまる政府の収入になるというのは、錯覚なのです。スティグリッツは還流の問題にはふれておらず、この点を明確にしないと、政府紙幣は現実的な提案にはならないと思います。