「民主党2.0」のためのコンセプト - 池田信夫

2009年02月27日 14:43

中川さんも指摘するように、労働組合を基盤にしていることが、民主党の強みであると同時に弱みです。しかし遅くとも9月までには、民主党政権が発足することはほぼ確実なので、彼らが自民党よりましな政策を出してくれれば、政権交代の意味はあると思います。現在の民主党のマニフェストは、自民党以上のバラマキ政策で、およそ政策の名には値しませんが、オバマ政権に学んで民主党2.0を打ち出せば、選挙対策としても魅力があると思います。


オバマ大統領の50分に及ぶ施政方針演説に、stimulusという言葉がまったく出てこないのは印象的です。これは日本語でいえば「バラマキ」。彼の出した8000億ドルの財政政策は、誰が見てもバラマキですが、意地でもそういわないことが重要です。これは経済学者の最近の論争を反映しています。

昔のケインズ理論では、今のように金利がゼロに張り付いて金融政策がきかなくなったときは、財政政策しかないとされていたのですが、これには多くの問題があります。現在の非常事態では、政府が一時的に支出を増やしてGDPを支えることに意味があるとしても、それはいつまでも続けることはできない。本質的な問題は、財政刺激をやめたあと潜在成長率が上がっているかどうかです。オバマ大統領が「長期の投資」を強調するのも、「アメリカの潜在的な力を発揮させるため」です。

自民党が何度も打ち出した景気対策がうまく行かないのも、こうした長期の展望を欠いたバラマキだからです。民主党が来たるべき総選挙で自民党に対抗して打ち出すべきなのは、バラマキを超える新しい長期戦略だと思います。特に重要なのは、今回の「輸出バブル」の崩壊で明らかになった慢性的な内需の不足をどう是正するのかという問題です。現実には、内需が全体的に不足しているわけではなく、たとえば医療・福祉では人手不足が深刻化しています。ところが、こうした産業は強く規制され、新規参入がむずかしい。このような規制を緩和することが重要です。

もう一つは、潜在成長率の低下をまねいた生産性の低下を是正すること、特に労働生産性を高めることです。日本の長期雇用は、労働者を企業グループの中で配置転換することによって高度成長期の需要変動に対応する巧妙なシステムでしたが、中国などのグローバル化の圧力には、そうした微調整では対応できない。特に競争力の落ちた製造業から付加価値の高い情報・金融などのサービス業にコアの人材を移動させる改革が必要です。

以上の二つの問題は、実は表裏一体です。日本のサービス業人口は労働人口全体の7割で、先進国の平均的な水準に比べて1割ぐらい調整が遅れています。したがって製造業からサービス業に資本・労働を移動させる資源の再配分が必要なのです。これは政府が強制的に行なう必要はなく、それを阻害している規制を撤廃し、企業が収益の高い部門に自由に参入することを促進すればよい。このためには、資本市場と労働市場の改革が必要です。

民主党にとってもっとも重要なのは、労働市場でしょう。これまでのように労働者を企業に囲い込むことによって守る日本的雇用慣行は、もう維持できない。企業が労働者を解雇する場合の規制を緩和すると同時に、労働者が他の企業に再就職しやすくする改革が必要です。かつては、こうした「福祉国家」的な政策は経済の効率を低下させると考えれていましたが、最近では北欧諸国の一人あたりGDPが英米型の国をしのぐようになり、Flexicurityとして注目されています。

北欧諸国は人口数百万人の小国で、労組の組織率が80~100%と非常に高く、それが労働移動の仲介機関になっています。それを日本に輸入できるかどうかは疑わしいという留保はありますが、こうした国々の相対的な効率が、1990年代以降のグローバル化の中で上がったことは重要です。東欧からの移民が大量に流入した欧州では、労働力を単純労働から熟練労働に移動する必要に迫られました。北欧型の手厚い労働者保護が、結果的には柔軟な労働移動を可能にして、グローバル化への対応を容易にしたといわれています。

これは日本にとっても手本になりうるでしょう。世界最大の工場である中国を隣に控えた日本は、欧州以上に強いグローバル化の圧力を今後もずっと受け続けます。中国でつくれるような工業製品をつくっている部門から、それと競合しないサービス業に労働人口を移動しないと、長期停滞は避けられません。こうした産業構造の調整を英米型の市場志向の労働市場で行なうよりも、北欧型の積極的労働政策によって行なうほうが効果的だとすれば、労組は労働移動のインフラとして新たな役割を果たせるかもしれない。

集票基盤の弱い民主党が労組の組織力に頼らざるをえない一方で、過度に依存すると「労組べったり」だと批判されるジレンマを解決し、真の国民政党として生まれ変わるためには、労組の役割を労働者の再チャレンジのための非営利組織として再定義する必要があるのではないでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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