日本の経験を英語で伝えよう - 池田信夫

2009年05月02日 20:49

私のブログでも何度か取り上げましたが、アメリカ人の日本の「失われた10年」についての認識は、ほとんど英語のコラムにもとづいたアドホックなもので、日本が高い授業料を払って学んだ教訓が生かされていません。最近もクルーグマンは、日本の2000年代の景気回復は輸出主導だったとし、不良債権処理は大した意味がなかったと主張しています。その根拠として彼のあげた図では、2001年に大きく投資が落ち込んでいるのですが、このデータは明らかにおかしい。

これはhimaginary氏も指摘するように、「投資」に公的資本形成を含めているとしか考えられません。こんな日本人なら直感的に「あれ?」と思うようなグラフをクルーグマンが何度も持ち出すのは、率直にいって日本をバカにしているような感じがします。

またマーティン・ウルフのコラムでは、リチャード・クー氏の英文の本を紹介して「日本は財政支出によって不況から脱出した」と書いています。これも明らかな誤りで、図のように政府の経済対策と成長率にはほとんど因果関係がない(赤い部分が経済対策の行なわれた時期)。日本経済が持続的な回復軌道に乗ったのは、2002年以降、小泉内閣で緊縮財政に転じてからです。 gdp3

また池尾さんも指摘するように、マンキューは今ごろになってマイナス金利やインフレ目標を主張していますが、日本の経験にも論争にも言及していない。これについて私が電子メールで彼に日本の論文を紹介したところ、「ありがとう」という返事が来ました。自然利子率がマイナスになった場合にどうすべきかというマクロ経済理論の重要な問題をマンキューが知らないのは驚くべきことですが、要するに日本ローカルの問題だと思っていたのでしょう。

アメリカ人は一般に、英語で書かれていない文献は読みません。特に経済学では、英語で書かれた論文でなければ業績とみなされない傾向が強まっています。これはある意味でやむをえないことですが、今回のように日本語で多くの経験や論争の積み重ねがあるのに、それを無視してバラマキに効果があるという誤った議論が流布され、8000億ドルもの財政支出が行なわれることは、世界経済にとっても非常に大きな損失です。

日銀の白川総裁も、こうした状況に危機感を抱いて英語版のサイトを充実するという方針を表明していますが、むしろ問題はもっと一般向けの文献がないことです。「アゴラ」も将来は英語版をつくり、こうした日本の貴重な教訓を世界に伝える役割を果たしたいと思っています。ボランティアで英訳していくださる人があったら、協力してください。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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