意味不明な「世襲制限」 - 池田信夫

2009年05月27日 09:32

争点らしい争点のない今度の総選挙で、数少ない争点になりそうなのが「世襲制限」です。民主党がマニフェストに入れることを決めたのを受けて、自民党も同じような方針を議論しています。しかし有権者からみると、この議論はよくわからない。


まず両党とも議論しているのは、候補者を公認する基準の話で、世襲を禁じる公職選挙法の改正ではありません(そんな職業選択の自由を奪う法律は不可能)。だとすれば、これは彼らの党内問題で、選挙でアピールすることではないでしょう。企業が「わが社は社長の世襲を禁じます」といっても意味がない。問題は商品の質であり、政党の商品は政策です。世襲であろうとなかろうと、最終的には有権者が選べばよいのです。

第二に、世襲は結果であって原因ではないということです。日本では政治家への参入障壁が非常に高いので、普通のサラリーマンが立候補することは不可能に近く、世襲で出る人しかいないのです。かりに当選しても、その次の選挙で落選すると生活もおぼつかない。私の知人にも元衆議院議員がいますが、落選した後はほとんどフリーターのような生活をしています。

参入障壁が高い最大の原因は選挙費用がかかりすぎることですが、当選したら会社をやめなければならないことも大きな原因です。イギリスなどでは、サラリーマンが休職して議員になり、落選したら復職できることが制度的に担保されていますが、日本にはそういう「セーフティ・ネット」がまったくないため、立候補するにはそれまでの人生を投げうつ覚悟が必要です。

落選後の生活が困難なのは、日本の労働市場が硬直的で、いったん会社をやめると、それ以上の条件で再就職することは不可能に近いからです。参入障壁はこれまでにも議論され、公費助成も行なわれてきましたが、落ちたら食えないという退出障壁は、これまで議論されたことがありません。

このように参入・退出にともなうリスクが非常に高いため、親から地盤を受け継いだ人しか立候補する気にならない。彼らは地元の名士なので、落ちても生活ができます。逆にいうと、地盤のない新人が立候補することは危険なので、身分の保障された大企業のビジネスマンが選挙に出ることは、家族などが大反対するでしょう。欧米では民間シンクタンクが落選した議員の受け皿になっていますが、日本のコンサルは官庁の下請けなので、そういう機能を果たしていない。

要するに世襲の問題も、日本の硬直的な労働市場の副産物なのです。普通の人が政治家になる道が閉ざされているため、選挙に出るのはハイリスク・ハイリターンを求める特殊な人々で、当選したら選挙費用のもとを取るためにえげつない利権あさりをする。このため「政治家はまともな職業ではない」という評判が立って、ますますまともな人物が立候補しない・・・という悪循環が起こってしまう。

だから問題は世襲を禁じることではなく、世襲が有利にならない選挙制度をつくることです。もっとも重要なのは、公職選挙法による選挙費用の制限をきびしく運用して選挙違反の罰則を強化することですが、同じぐらい重要なのは、普通の民間人が選挙に立候補できるように参入・退出障壁を下げることです。それは社会がタテ割りになってヨコの移動が困難な日本社会を変える改革と一体です。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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