日本人はリスクがきらいか - 池田信夫

2009年05月31日 00:38

きのうのアゴラ・シンポジウムは満員の大盛況で、懇親会も遅くまで盛り上がりました。今回の最大のサプライズは、会場に来ていただいたみなさんのエネルギーでした。不況に沈んでいるようにみえる日本ですが、まだ捨てたものではないと思います。


いろいろなテーマが議論されましたが、私の印象に残ったのは「リスク」です。城さんからは、リスクが最大の非正社員のリターンが最低になっている人事構成のゆがみについての指摘があり、池尾さんからは「実証研究によれば、日本人が国民性として特にリスク回避的というわけではない」とのことでした。日本人がリスクが嫌いだという通念は疑わしい。それなのに、そういう通念にもとづいて既存の企業を救済したり、労働保持に補助金を出したりする行政が続けられています。

日本のシステムは、いろいろな意味でリスクが分散しにくく、失敗した場合のオプションが狭いのが特徴です。村上さんの話にもあったように、シリコンバレーでは一定の確率で失敗することを織り込んだ資金調達システムが整備されていますが、日本では個人保証を求められ、失敗したら全財産を失いかねない。就職でも、新卒で入ってから「しまった」と思ってもやり直しがきかない。こういうヨコのつながりが弱く、中間集団の拘束性の強いタコツボ構造は、「追いつき型近代化」の時期にはうまく行きましたが、今のようにシステム全体を見直すときには硬直性が強く、軌道修正がしにくい。

こうした現状認識については、パネリストも会場のみなさんもあまり異論はないのですが、現実にとられる政策は、前述のようにタコツボから落伍した人々の「救済策」ばかり。人々の意識と政策に、大きなずれがあるような気がします。もちろんシンポジウムに集まった人々はかなり片寄ったサンプルなので、茶の間の主婦には「ワーキングプアがかわいそうだ」とか「中小企業が倒産するのを助けろ」といった話が受けるのでしょう。そしてマスメディアもそういう「庶民感情」に迎合する。

メディアの情緒的な報道には、いろいろな人から批判が出ましたが、懇親会できいた話でおもしろかったのは、NHKの記者が企業の3月決算発表で、各社に軒並み「何人切ったのか」と質問したという話です。「ワーキングプア」キャンペーンにNHKの果たした役割は、左翼的といわれている朝日新聞や毎日新聞より大きい。これは私にはよくわかります。NHKはいつも「政府寄りの国営放送」といわれることを恐れているので、つねに「弱者」寄りの報道をするバイアスがあります。特に、ワーキングプアのような政治的に安全な「人道問題」には力を入れているのでしょう。

その結果、「安心・安全」が過度に強調され、行政もローリスク・ノーリターンの方向に人々をミスリードする。それによって長期停滞がさらに長期化する・・・という負のスパイラルに、日本経済は入りつつあるのではないでしょうか。こうした状況を突破する一つの試みとして、来月から月1回「アゴラ起業塾」と題して、アントレプレナーのみなさんの交流の場をつくる予定です。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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