先月のシンポジウムでは非正規雇用の問題が大きな話題になりましたが、そのとき池尾さんが「これは経営者と組合の結託なので、是正はむずかしい」と発言したのが印象に残っています。これは私もブログで紹介した問題です。
大竹文雄氏によれば、整理解雇の4要件のうち特に問題なのは解雇回避努力です。これまでの判例では、企業が次のような努力をすべて行なったあとでないと、正社員の整理解雇は認められません:
- 経費の削減:交際費、広告費、交通費など
- 役員報酬の減額
- 新規採用の中止
- 時間外労働の中止
- 正社員の昇給停止、賞与の抑制、削減
- 配置転換、出向
- 一時帰休
- 非正規社員の解雇
- 希望退職の募集
ここで注目してほしいのは8です。つまり正社員(労働組合員)を解雇するためには、まず非正規社員を解雇する必要があるのです。したがって労働組合が彼らの既得権を守るためには、なるべく非正規社員を増やして「バッファ」を厚くしたほうがいいわけです。他方、経営側にとっても、低賃金でいつでもクビの切れる非正規社員は調整弁として便利だから、この条件は彼らにも好都合です。
つまり長期不況の中で、賃金コストの抑制を迫られた経営者と、要員削減の「防護壁」を厚くしたい労働組合の利害が一致した結果、無保護・無権利のフリーターが大量に生み出されたわけです。いいかえれば現在の雇用規制は、経営者と労働組合の既得権を守るために非正規労働者を差別する雇用カルテルともいうべきものです。この不公平な制度が改まらないかぎり、生活保護や最低賃金を増額したところで、正社員と非正規社員の身分格差はまったく解決されない。
だから湯浅誠氏など非正規労働者を支援する人々は、闘う相手を間違えている。あなたがたが友軍と信じている連合こそ、フリーターを「外堀」とすることによって自分たちを守っている加害者なのです。この構造に彼らが気づかないかぎり、状況は何も変わらない。本質的な問題は、このように非正社員を犠牲にして正社員(労働組合員)の既得権を守る「日本的雇用慣行」の偽善を明らかにし、同一労働・同一賃金の原則を求めて闘うことです。