政策提言にも行動経済学が必要だ - 池田信夫

2009年07月16日 21:43

自民党はカオス状態になっていますが、民主党政権になっても大して変化は期待できません。彼らの掲げているのも、自民党と大差ない再分配型のバラマキ政治だからです。英米型の2大政党制を形だけまねたものの、そのメカニズムが根づくのには10年以上かかるでしょう。

2大政党制の特徴については多くの議論がありましたが、最近はやりの行動経済学でいえば、個々の政策の優劣ではなく、何を政策として優先するかというアジェンダ(課題設定)を変えることです。これを行動経済学ではフレーミングとよびます。たとえば「14兆円も使って景気を刺激した」と考えるか「財政赤字が14兆円も増えた」と考えるかというフレームの違いによって、その後の政策は大きく違ってきます。


1党政権や多くの党の連立政権では、既存のアジェンダの中で優先順位をどう変えるかという妥協しかできませんが、2大政党で政権が完全に入れ替わると、過去のアジェンダを捨ててまったく新しい順位に変えることができます。ところが民主党のマニフェストを見ても、肝腎のアジェンダが変わっていない。民主党の「生活が第一」というスローガンは「景気が優先」という自民党とどう違うのでしょうか。

具体的な政策も、農家への所得補償や子供手当などは、民間企業が稼いだ所得を政府が再分配する、自民党と同じパターナリズムです。雇用問題についても、派遣労働の禁止など、厚生労働省の家父長主義をそのまま受け継いでいる。公務員制度改革についても、今国会で流れてしまった公務員制度改革が、民主党政権で成立するのかどうかも危ぶまれています。彼らの最大の支持団体である官公労が反対しているからです。

これまで経済学では、民間人は合理的に行動し、政府は中立に行動すると仮定してきましたが、こうした便宜的な合理主義を改め、心理的なバイアスを実験で検証する研究が増えています。同じことは政治家や官僚にも行なうべきでしょう。彼らは権限の減る規制撤廃や制度改革はいやがる一方、予算の増える温情主義的な政策を優先する傾向があります。

こうした行動を非合理的なバイアスと考えるのではなく、自然なフレーミングと考え、それを計算に入れた上で政策提言を行なう必要があるでしょう。セイラー=サンスティーンは、これを冗談で「自由主義的な温情主義」とよんでいますが、これからは経済学者も、政治家や官僚やメディアの心理を計算し、彼らのアジェンダが変わるように誘導する戦略的な提言を行なう必要があると思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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