政策提言にも行動経済学が必要だ - 池田信夫

池田 信夫

自民党はカオス状態になっていますが、民主党政権になっても大して変化は期待できません。彼らの掲げているのも、自民党と大差ない再分配型のバラマキ政治だからです。英米型の2大政党制を形だけまねたものの、そのメカニズムが根づくのには10年以上かかるでしょう。

2大政党制の特徴については多くの議論がありましたが、最近はやりの行動経済学でいえば、個々の政策の優劣ではなく、何を政策として優先するかというアジェンダ(課題設定)を変えることです。これを行動経済学ではフレーミングとよびます。たとえば「14兆円も使って景気を刺激した」と考えるか「財政赤字が14兆円も増えた」と考えるかというフレームの違いによって、その後の政策は大きく違ってきます。


1党政権や多くの党の連立政権では、既存のアジェンダの中で優先順位をどう変えるかという妥協しかできませんが、2大政党で政権が完全に入れ替わると、過去のアジェンダを捨ててまったく新しい順位に変えることができます。ところが民主党のマニフェストを見ても、肝腎のアジェンダが変わっていない。民主党の「生活が第一」というスローガンは「景気が優先」という自民党とどう違うのでしょうか。

具体的な政策も、農家への所得補償や子供手当などは、民間企業が稼いだ所得を政府が再分配する、自民党と同じパターナリズムです。雇用問題についても、派遣労働の禁止など、厚生労働省の家父長主義をそのまま受け継いでいる。公務員制度改革についても、今国会で流れてしまった公務員制度改革が、民主党政権で成立するのかどうかも危ぶまれています。彼らの最大の支持団体である官公労が反対しているからです。

これまで経済学では、民間人は合理的に行動し、政府は中立に行動すると仮定してきましたが、こうした便宜的な合理主義を改め、心理的なバイアスを実験で検証する研究が増えています。同じことは政治家や官僚にも行なうべきでしょう。彼らは権限の減る規制撤廃や制度改革はいやがる一方、予算の増える温情主義的な政策を優先する傾向があります。

こうした行動を非合理的なバイアスと考えるのではなく、自然なフレーミングと考え、それを計算に入れた上で政策提言を行なう必要があるでしょう。セイラー=サンスティーンは、これを冗談で「自由主義的な温情主義」とよんでいますが、これからは経済学者も、政治家や官僚やメディアの心理を計算し、彼らのアジェンダが変わるように誘導する戦略的な提言を行なう必要があると思います。

コメント

  1. satahiro1 より:

     
    今回の自民党の”カオス状態”を醸し出した、加藤紘一氏と中川秀直氏は同じ党に所属していながら政治理念は大きく違うように見えます。

    加藤紘一氏は社会民主主義に近くパターナリズムの立場のように見えます。
    一方、中川秀直氏は小泉政権で枢要な立場を占め、「小泉・竹中構造改革」の立役者の一人で”リバタリアン・構造改革者”の立場に見えます。

    今回主義主張が違う二人が組むのは、ひとえに「アソウではだめだ!!!」と言う、一点なのでしょう。

    対する民主党内でも横路孝弘衆議院副議長は旧社会党出身ですし、小沢一郎代表代行はリバタリアン・構造改革者に近いように見えます。
     

  2. satahiro1 より:

     
    >たとえば「14兆円も使って景気を刺激した」と考えるか「財政赤字が14兆円も増えた」と考えるかというフレームの違いによって、その後の政策は大きく違ってきます。

    社会民主主義・パターナリズムに近い立場の人には「14兆円も使って景気を刺激して」エルピーダやパイオニア・JALに資本を投入して従業員らを救った、となるでしょうし、リバタリアン・構造改革派はゾンビ企業に大切な血税を投入して「財政赤字が14兆円も増え」社会構造を弱体化した、となるでしょう。

    >(民主党の)農家への所得補償や子供手当などは、民間企業が稼いだ所得を政府が再分配する、自民党と同じパターナリズムです。雇用問題についても、派遣労働の禁止など、厚生労働省の家父長主義をそのまま受け継いでいる。

    自民党と民主党の両者に大きな違いがないのはどちらも””社会民主主義・パターナリズム”、”リバタリアン・構造改革派”を内包しているからではないでしょうか。

    >これからは経済学者も、政治家や官僚やメディアの心理を計算し、彼らのアジェンダが変わるように誘導する戦略的な提言を行なう必要があると思います。

    今後、来年の参院選挙、次々回の衆院選挙などを経て、この二つの対立軸に収斂するように思います。
     

  3. hogeihantai より:

    一票の重みを平等にしない限り日本の政治は変わりません。同じ都会の選挙区、又は同じ地方の選挙区では自民も民主も個人の候補が主張する経済政策は殆ど同じです。違うのは都会と地方の議員の差であって、政党間の差ではない。

    参議院で5倍、衆議院で3倍の票の格差を合憲とする最高裁の判決は中東の宗教指導者が牛耳るインチキ裁判所と五十歩百歩だ。民主主義の基本は公平な選挙制度が必要条件、最大多数の最大幸福が十分条件とすれば、二つとも欠ける日本は民主主義国家とはいえない。

    最高裁の判事は殆どが東大法学部の出身と思うが、東大の法学部の教育はいったいどうなっているのですか。同じご出身の池田さん教えてください。同窓生として恥ずかしいと思いませんか。

  4. somuoyaji より:

    高速道路無料化の可否。これだけは明確に違うでしょう。