雇用調整助成金は「人的不良資産」を増やす - 池田信夫

2009年08月02日 10:39

6月の完全失業率が5.4%と発表されました。史上最悪だった2003年4月の5.5%を少し下回る数字ですが、実態は史上最悪です。雇用調整助成金の申請者が238万人にのぼり、これを加算すると、「実質失業率」は8.8%になるからです。いわば3.4%の「隠れ失業者」がいるわけです。


雇用調整助成金は、業績の悪化した企業が休職中の労働者に出す休業手当の一部を政府が補助する制度で、小泉政権で廃止の方向が打ち出され、昨年初めには支給対象者は1500人程度に減っていました。ところが昨年12月に支給条件が大幅に緩和され、事実上すべての休職者に支給できるようになったため、申請が激増し、1年あまりで1500倍以上に増えたのです。

これは一時的には、やむをえない措置でしょう。いきなり失業率が8%を超えると、社会不安をまねきます。また雇用の落ち込みが一時的なものであれば、政府が支援しているうちに景気が回復して復職できる見込みもあるでしょう。しかし現在の雇用調整助成金の支給期間は3年間で300日で、これは長すぎます。

小泉政権でこの制度の運用を厳格化したのは、業績の悪化した企業がリストラしないで問題を先送りするインセンティブになっていたためです。それと並行して「竹中プラン」などによって不良債権の処理が促進されたため、企業の清算や雇用調整が進みました。ところが喉元過ぎればなんとやらで、厚生労働省はその教訓を忘れて昔の温情主義に戻り、同じ失敗を繰り返そうとしています。

90年代に日本が学んだのは、不良債権の処理や雇用調整を先送りすることは、短期的には痛みをやわらげるが、それによって経済が悪化すると、不良資産は何倍にもなって返ってくるということです。最後はそれが信用不安となり、日本経済が崩壊の危機に直面して、やっと「ハード・ランディング」への転換が行なわれたのです。その決断に至るまでの「失われた10年」に成長率は年率2%以上低下し、GDPの20%近くが失われたと推定されます。

つまり雇用調整助成金のように問題を先送りさせる制度は、ソフトな予算制約をまねいて「ゾンビ企業」を延命し、浪費されている人的・物的資源の再配分を阻害して成長率を低下させる、というのが90年代の教訓です。不良資産の最終処理は政治的には困難ですが、結果的には小泉政権のもとで日本経済は長期不況を脱却しました。しかし金融システムや労働市場の根本的な改革は行なわれなかったので、その後の成長率も低いままです。

いささか残酷な表現をすれば、雇用調整助成金によって休業手当を支給されている社内失業者は、「人的不良資産」です。これを清算し、労働者を衰退産業から福祉・医療など人手不足の部門に転換しないと、過剰雇用を抱えたままの企業の業績はますます悪化し、それによって社内失業も増える・・・という90年代と同じ悪循環が発生します。雇用調整助成金は1年以内に打ち切り、職業訓練バウチャーとして個人に支給する制度に転換すべきです。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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