既存メディアとインターネットの融合 - 松本徹三

2009年08月07日 22:47

アゴラでは、既存メディアに対する批判が続出しています。「どんな時代でも、またどんな国でも、メディアのレベルが民衆の知的レベルを決めると言っても過言ではないのに、今の日本の既存メディアの『姿勢』と『能力』では、民衆の知的レベルの向上はとても望めない」という慨嘆がある一方で、「今や『第四権』と言われる以上の政治的影響力を持っている既存メディアが、自らの既得権にこだわり、政治家と癒着し、或いは恣意的に『世論』なるものを作り出そうとする程に堕落している」という批判があります。


一方、国の内外で、既存メディアの経営は軒並みに悪化しており、特に、長い間権威を誇示してきた「新聞社」の経営基盤は、今や累卵の危機に瀕しています。皮肉なことに、この経営危機は、基本的には大衆の活字離れに起因しているものであり、別に新聞社に「国をリードする気概」や「正しい姿勢」がなかったから生じたものではありません。彼等が、仮に「国民の模範となるような正しい姿勢」を貫いていたとしても、現在の経営危機は回避できなかったでしょうし、「経営面を考えて、やむなく信念を捨てて、大衆に迎合している」という側面だってないとは言えないでしょう。(テレビの場合は特にそうでしょう。)

「既存メディアは救いようがないから、放っておいても徐々にインターネットに主役を奪われていくだろう」と言って、問題を単純化する人達も多いのですが、私はその立場はとりません。「新聞とテレビが全て」という時代は既に終わっていますが、新聞やテレビの存在意義は今後ともずっと存続し、インターネットとあわせて「三本足の鼎」を形成することになるであろうと信じています。

新聞やテレビには、もっとしっかりして貰わねばなりませんが、インターネットだって、それ以上にしっかりせねばならないのです。インターネットの現状は、まだ本来あるべき姿の1-2割のレベルにしか達していないと、私はかねてから考えており、克服しなければならない課題は、新聞やテレビよりもまだずっと多いと思っています。

以前のブログでも書いたことですが、Twitterのようなものがニュース取材に革命的なインパクトを与えようとしていることは明らかであっても、このことは、既存メディアとインターネットの関係を考える上では、一つの比較的小さな側面にしか過ぎません。インターネットにはまだもっと大きな使命があるのです。

Twitterは一瞬の「つぶやき」であり、いわば俳句のようなものです。「状況分析」とも、「戦略的思考」とも、「政策提言」とも、何の関係もないものです。また、Twitterによるニュース速報は、「既存メディアでは出来ないこと」を提供するものですから、評価されるのも容易です。これに対し、これからインターネットが果たさなければならない役割は、既存メディアよりも上質の「分析」や「提言」を行うことです。これはもっともっと奥が深く、且つ、難しいことです。

私は長年ビジネスの世界で生きてきましたから、対案のない批判や、具体策のない評論には興味がありません。また、よいビジネスの多くは、当事者間でWin-Winの関係が構築されることによって生まれ、力でねじ伏せようとするようなやり方からは生まれにくいということも、体験として知っています。

私が今既存メディアに望むことは、唯一つ、「如何に経営を守るためとはいえ、旧態依然たる政治家とのつながりに頼ったり、既得権にしがみついて時の流れに抗したりするような愚かなことは直ちにやめ、未来志向に徹してほしい」ということです。

更に一歩進んで具体的に言うなら、「『インターネットを敵視する、或いは軽蔑する』というような愚かなことは直ちにやめ、インターネットを包含した『統合的な報道・言論システム』を作り上げる努力をしてほしい」ということです。

インターネットは本来多元的なものであり、教条主義的に何かを押し付けたり、何かに迎合したり、或いは異質なものを排除したりすることには無縁なものです。しかしながら、それ故に、過度の「混沌」を招く恐れもなしとはせず、また「デマゴーグの温床」となる危険性も秘めています。これに対して、既存メディアは、歴史的に一定の枠にはめられている場合が多く、且つ、基本的に一元的な性格をもっているので、しばしば「教条的」になったり、逆に「大衆迎合的」になったりする可能性があります。

ということは、既存メディアとインターネットの両者の統合こそが、最も理想的な「報道と言論のシステム」を作り出すことを可能にするような気がしてならないのですが、如何でしょうか?

既存メディアは、どうして、この理想の姿を追及しようとしないのでしょうか? 「インターネットというアンチテーゼと正面から向き合って、自らの問題点を克服する一方で、自らの強みを生かして、現在のインターネットの弱点を克服しよう」と考えてはくれないのでしょうか? そうすることこそが、あらゆる批判に応えて、真に国民をリードできる存在へと自らを高める一方、迫り来る経営上の危機にも効果的に対応する「最良の方策」のように思えてならないのですが…。

私はインターネットの将来に人並み以上の期待と思い入れを持っている人間ですが、だからといって、既存メディアを決して「抵抗勢力」とは思っていません。それどころか、「既存メディアこそが、色々な問題を抱えているインターネットの現状に対して、救世主の役割を果たし得る」とさえ思っているのです。既存メディアがいつまでたってもこの期待に応えてくれないとしたら、本当に残念としか言いようがありません。

松本徹三

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