はなしの真相・パート2--池尾和人[訂正あり]

竹森くんから、日経ビジネスオンラインの対談をまとめた『経済危機は9つの顔を持つ』(日経BP社)という本が送られてきた。そのうち、河北博文氏との対談の前の文章の中で、『東洋経済』2009年2月14日号の私の記事の一部を引用して、「二つの点で異論がある」としていた箇所については、第二の方は、先の私の指摘を受け入れて、全く書き換えられている。

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[訂正]同書のp.226に「謝辞」がありました。本文に(注)を参照しろ、という記載がなかったので、いままで発見できませんでした。したがって、初出でフェアではないと記載したことは訂正して、この点は竹森くんにお詫びします。

ただし、以下で述べているように、竹森くんの議論が全体として「わら人形論法」でしかない点については、強く抗議しておきたいと思います。
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また、第一の方はそのままで、池田さんの指摘は全く無視している。「根本的な誤解がある」のは竹森くんの方でしょう。

そもそも、人の名前を出して批判的な文章を書くのであれば、その対象となっている者が述べていることを正確に理解してからにすべきだということは、最低限のルールだと思う。

『東洋経済』2009年2月14日号の私の記事を竹森くんは、

「医療を日本のリーディング産業にする」という思想をより一層、明確に主張したものだ。

として、引用している。これって、誇張というよりも、ほとんど歪曲だね。こうした予断を与えられて、引用された部分だけ読むと、もしかするとそんな気がするかもしれないけれども、引用部分の中でも「可能性があると思う」としか書いていない。可能性があるというと、リーディング産業にすると明確に主張したことになるのかね(この点については、この記事を参照のこと)?

本当、当ブログの読者には、『東洋経済』2009年2月14日号の私の記事を読んでみてほしいね。誰か竹森くんが言うような主張を私がしていると思う人がいたら、教えて下さい。

それから、第二の異論の根拠となる竹森くんの「新議論」は、間違ってはいない(もっとも、後述するように、貿易財産業の生産性だけが問題だと考えているとすれば間違っている)けれども、異論としての説得力も感じないね。

もしある国が「医療、介護」というたった一つの「非貿易財」の生産に特化するならば、その国は成長はおろか、最低限の生活水準すら維持できないだろう。


と書いているけれども、そりゃそうだよ。そんなの当たり前だ。

誰か(私を含めて)、「医療、介護」というたった一つの「非貿易財」の生産に特化して成長していこうとかバカなことを言っている者がいるのかね。そんなことを言っている者がいるというのなら、その名前と根拠となる文書を示してもらいたいね。文章の流れからすると、私がそんなことをいっていると誤解を与える恐れがあるけれども、そうなるとほとんどでっち上げで、濡れ衣を着せられている感じだね。

ここでの竹森くんの議論の仕方は、典型的なわら人形論法だといえる。

先の記事の中でも、私は

生産性を上げる必要は、すべての産業を通じてあって、自動車産業もそうだし、医療・介護サービスもそうだ。

と書いているじゃない。貿易財産業の生産性だけを上げればよくて、非貿易財産業の生産性はどうでもよいという国際経済学者はいないと思うから、私の誤解だろうが、竹森くんの議論を読むと、貿易財産業の生産性だけを上げればよいような印象を受ける。もしそうだとすると、それは間違っている。

「現在の日本の人口構造動態を踏まえると、医療・介護等の分野への資源配分を拡大しなければならない」としたとき、求められているのは、「自動車」のような「貿易財」の生産性向上だけではない。医療・介護産業の生産性が向上すれば、その生産性が低いときに比べて同じ量のサービスの産出をより少ない労働力で達成できることになる。それゆえ、節約された分の労働力を「資本財」の生産に振り向けることができる。こうした意味で非貿易財産業の生産性向上も等しく大切なのだよ。だから、医療・介護の分野でも構造改革を進めていく価値があるといっているわけだ。

異論にもならないことを言って、人を批判するのはとても失礼なことだよ。『中央公論』8月号の論文についても、訂正してほしいもんだ。

[追記]2009.8.8の午前中に、少し加筆訂正しました。

コメント

  1. 池田信夫 より:

    国際経済学の専門家である竹森さんの立場からいえば、むしろ「貿易不均衡の解決策として内需拡大を唱えた前川リポートは誤りだ」というべきではないでしょうか。これは当時も、小宮隆太郎さんなどが批判した点で、経常収支がつねにバランスしている必要はなく、まして日米の二国間で「不均衡」を問題にするなんてナンセンスです。

    しかも具体的にアメリカ側が要求したのは公共投資と政府調達の対米開放で、要するに「民間では負けたから政府がアメリカ製品を買え」というわけです。それを前川リポートやメディアが支持したおかげで、430兆円の公共投資という対米公約ができてしまい、これがのちのバラマキ景気対策の根拠にもなりました。今回も「内需拡大」というと、このときのように「政府が内需を拡大しろ」と解釈されることは警戒する必要があります。

    他方では、これを「外需は必要ない」という主張と解釈して批判する人もいます。今年の経済財政白書は「成長の余地があるのは輸出だから、もっとグローバル化が必要だ」と書いていますが、それは自明です。むしろ「内需型」と思われている小売業などがユニクロのようにグローバル化するのが、ベストシナリオでしょう。容易ではありませんが。