NTT「2010年問題」はどこへ行った? - 池田信夫

2009年08月16日 09:53

NTTの経営形態は、1985年の民営化からずっともめ続けているテーマです。2006年に行なわれた「竹中懇談会」では議論が迷走し、結局、自民党との政府・与党合意で2010年まで先送りになりました。NTTは当初、金融の「竹中プラン」のようなドラスティックな案が出てくることを恐れていましたが、懇談会の内容があまりにも素人談義なのにあきれて、片山虎之助氏を使って押さえ込んだのです。


この政府・与党合意は閣議決定されたので、民主党政権になっても「2010年の時点で検討を行なう」という決定事項は有効ですが、NTTの再々編を検討しようという空気は与野党ともにありません。先月のICPFセミナーでも、NTTの経営を代表する世耕弘成氏も労組を代表する内藤正光氏も一致して、「NTTの経営形態は経営陣が決めればよい」と主張していました。

もともと再々編問題は、NTTが持ち出したものです。現在の経営形態は電話時代のままなので、県間接続ができないなどインターネット時代にはそぐわない。そこで宮津純一郎社長(当時)の要請で、2000年に電気通信審議会で審議が始まりました。ところが竹中平蔵氏(当時のIT担当相)などが「完全分割」を唱え始めたため、宮津氏は電通審で「この問題は忘れてほしい」といって、再々編問題は宙に浮いてしまいました。このときのトラウマがNTTの経営陣には今でも残っており、「経営形態を議論すると素人が騒いで完全分割論が出てくる」と恐れているのです。

その後の和田紀夫社長はこの問題を完全に封印し、現在の三浦惺社長もその方針を引き継いでいます。懸案だった県間接続も実質的に認められたので、経営形態を変えなくても不都合はなく、NGNになれば事実上、一体営業ができるからです。政治家も、与野党ともに再々編論議は無視で、総務省の鈴木康雄事務次官も「親NTT」として知られていますから、このままでは再々編問題は骨抜きになるでしょう。NTT法のような特殊会社をやめ、非対称規制を廃止して階層別の一般的な通信規制に統合するはずだった情報通信法も竜頭蛇尾に終わりそうで、NTT法は残ることが確実です。

それでいいのでしょうか。松本さんもおっしゃるように、現在のNTTの「半国営」の変則的な経営形態は、経営の自由度を奪って株主価値を損なっています。NTTドコモの時価総額が6.1兆円なのに、その株式の66%を保有するNTT(持株会社)の時価総額が6.5兆円しかない。これはドコモ以外のすべての会社(社員18万人)の価値が、約2.5兆円と評価されている計算です。これはソフトバンク(社員2万人)の時価総額2.3兆円とほぼ同じです。人的・物的資本が浪費されているといわざるをえない。

特に連結の経常利益の8割以上を稼いでいるドコモの「植民地化」が目立ちます。ドコモはNGNにも参加せず、独自の光ファイバー網をもっているので、NTTグループから独立したいと考えているが、持株会社が他の会社の余剰人員を押しつけてドコモにぶら下がっている状態です。このような内部補填は、ドコモの士気を低下させる一方で、持株の甘えを増長させ、どちらにとってもよくない。ドコモはMBOで独立すべきだと思います。

さらに問題なのは、このようにNTTの力が圧倒的に強く、通信分野の研究開発も支配していることが、通信規格の「ガラパゴス化」をもたらしたことです。かつての「電電ファミリー」時代ほどではないにせよ、ISDNや携帯電話のPDCなど、NTTが独自規格にこだわったおかげで、日本の通信技術が世界に後れをとったケースは多い。

日本が「ものづくり」を脱却してサービス業の効率化をはかり、産業全体がグローバルな水平分業に適応する上で、通信サービスはもっとも重要な分野です。NTTの垂直統合的な経営形態とガリバー独占が残ることは、日本の成長戦略にとっても好ましくないし、NTTの株主にとっても損失です。NTTを完全民営化して、「普通の会社」にする改革を考えるときだと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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