記者クラブという金食い虫 - 池田信夫

2009年09月06日 21:08

民主党は、官房長官などの記者会見を記者クラブ以外にも開放する方針を打ち出しています。これは当然のことですが、この機会にメディアの側も記者クラブを見直してはどうでしょうか。欧米にもpress clubはありますが、文字どおり記者会見などのときだけ使われるクラブで、各社の記者が24時間はりついて家賃も電気代も役所もちで、一緒に麻雀するような奇習は、世界のどこにもありません(韓国も廃止した)。それは官民癒着の象徴であるばかりでなく、経営の苦しくなってきたメディアにとっても重荷になっているのです。


私がNHKに勤務していた15年以上前から、社内でも「あんなにたくさんクラブに要員を貼り付けるのは無駄だ」という批判がありました。特に効率が悪いのは社会部で、当時は警視庁だけで30人近い記者がクラブにいました。警視庁だけではなく、6つの方面本部にそれぞれ数人の記者がいて、警視庁キャップは部長なみの権力をもっていました。私のようなディレクターは傍流の「遊軍」で、遊軍キャップの池上彰さんとはよく一緒に仕事をしましたが、彼も「サツ回りが多すぎる」とぼやいていました。

サツ回りの仕事の9割は交通事故とか火事とか傷害事件で、ほとんどニュースになりません。このごろは警察発表がそのまま電子メールで通信社に流れて配信されるので、クラブの意味もない。記者の中でも「発表ものは共同通信の原稿でいいじゃないか」という意見が前からあるのですが、「サツネタは報道の基本だ。それをおろそかにすると取材力がなくなる」とかいう精神論に阻まれ、各社横並びで非生産的な深夜労働が続けられています。こういう徒弟修行がキャリア形成に組み込まれているのも、官僚機構とよく似ています。

しかし後輩の話をきくと、こういう不毛なサツ回りも、最近はかなり減ったようです。今度の政権交代で、「ぶら下がり」に象徴される政治部と政権の癒着も変わるでしょう。新聞社もテレビ局も赤字になり、朝日新聞の今年夏のボーナスは40%カットされたそうです。年収1000万円以上の高給サラリーマンが朝から晩までハイヤーを乗り回すクラブ取材をやめれば、経費は大幅に節約できます。

日本以外のすべての国では、事件や事故などの第一報は通信社が警察発表をそのまま配信し、新聞社や放送局はその配信記事を見て必要なものだけ独自に取材します。毎日50ページ以上発行しているNYタイムズの記者は500人ぐらいしかいないのに、その半分ぐらいの分量しかない朝日新聞の記者が2000人もいるのは、「特落ち」を恐れる横並びで記者クラブや地方支局に大量の要員を配置しているからです。

90年代以降、日本の企業は地方支社から要員を引き上げ、請負や派遣あるいは海外移転によって効率化をはかりました。それをメディアが「小泉改革が格差を生んだ」などと批判していたのは、自分たちがそういう「痛み」を共有していなかったからです。これから社内失業者を切り、新卒採用をストップし、アルバイトを減らす経営努力をすれば、それが小泉改革とは何の関係もない長期不況によるものだということがわかるでしょう。

日本の成長戦略にとって重要なのは、規制に守られて生産性の低いサービス業の効率化です。なかでも政治力によって規制や電波利権を守り、日本語の壁にも守られてきたメディアは、土建業にも劣る日本でもっとも後進的な産業です。それに手をつけようとすると、「表現の自由」やら「著作権」やらお題目を並べて彼らは既得権を守ってきましたが、それが自分たちの首を絞めているのだということに、そろそろ気づいたでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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